563話 相談しましょう
雨妹は帰ってすぐに楊の姿を探す。
「楊おばさ~ん、どこにいますかぁ? 食堂かな」
楊はよく休憩を食堂でとっているので、そうあたりをつけて行ってみる。すると思った通り、楊は人がいない食堂で、美娜からおやつに揚げ芋をもらって食べているところだった。
「いたいた、楊おばさん大変です!」
雨妹がそう言いながら食堂に入ると、楊が眉を上げる。
「小妹の大変は、ドキッとさせられるねぇ」
楊が警戒するような態度、まるで雨妹がいつも面倒事を持ち込んでいるみたいで、なんだか釈然としないものがある。たまにそういうのを引っ張る自覚はあるが、いつもという頻度ではないはずだ――たぶん。
「まあまあ、コレをつまみながらお話しよ」
美娜がにこやかに揚げ芋を渡してくるので、ありがたく貰った雨妹はポイっと口に入れる。まだ揚げたての上に水あめを絡ませてあり、大学芋みたいな風味で美味しい。雨妹はふにゃんと頬を緩めたが、すぐに和んでいる場合ではないと思い出す。
「そうです、大変なんです!」
雨妹は楊に掃除中に出くわした燕淑妃の一団の話から、陳のところへ行くまでの事情を話した。
「というわけで、今その人は陳先生のところで寝ています」
「なんてこったい」
雨妹から一連の話を聞き終えた楊は渋い顔である。
「阿妹あんた昨日の今日で、早速燕淑妃の関係者を捕まえたのかい?」
一緒になって話を聞いていた美娜がいっそ感心している横で、楊は大きくため息を吐く。
「あまり妙に手を出したい宮じゃあないね。あそこはそもそもが何事も内緒で動くのが好きだから」
「あ~」
楊の言い分に、雨妹はなんとも言えない気分になる。
雨妹も燕淑妃関係者御一行をこの目で見るまでは、「なにをそんな大げさな」と思ったかもしれない。けれどあの行軍のような様子を目の当たりにしてしまっては、近付くのは遠慮したくなる。
「私の目の前を通り過ぎる時黙々と歩いていて、なんか訓練された兵士みたいっていうか、独特な雰囲気でしたよ」
あの時の正直な感想を口にする雨妹に、楊は「言い得て妙だね」と否定しない。
「特に今は敏感な時期だから、特に余所者を警戒しているのもあるんだろうさ――だが確かに、行方知れず扱いで探されているかもしれない」
そう言って楊は眉間に皺を寄せる。
「それにちょいと調べれば、その方を連れて移動した小妹のこともわかるだろう。それが後で知れて、痛くもない腹を突かれるのも御免だね」
「う~ん、言わなかったことを『隠していたんだろう!』ってなったら、否定するのも面倒だもんねぇ」
楊の意見に美娜も同意している。
「けど、変なところで見つけたことは気にかかるね。それが良かれ悪かれ、巻き込まれたくはないもんさ」
やはり楊もそこに引っ掛かりを覚えるらしく、美娜も「う~ん」と首を捻る。
「ごみ捨て帰りってことは、あんたたちが使う裏道だろう?」
「そうなんですよ」
そう聞いてくる美娜に雨妹は頷く。
「お偉い人が歩く道じゃあないねぇ」
「ですねぇ」
美娜の話す通り、掃除係がよく使うのは人がいない裏道となる。掃除係がごみや掃除道具をかかえて表のきれいな道を通るのは、必要な労働とはいえ、見た目によろしくないし、人が多いと荷物を抱えて通り辛いので、自然と御用達の道ができているわけだ。
――そんな下っ端専用の道に高位女官がいたんだから、やっぱり気になるよね。
そんなことを考えて、三人で「う~ん」と唸っていたのだが。
「まあなんでもいいか。仕方ないから、宮に伝えるくらいはしてやろうかね」
楊が心を決めたようにそう言って、雨妹を指差した。
「というわけで小妹、行っておいで」
「私ですか!?」
話を振られて雨妹はギョッとする。てっきり、楊の伝手からいい感じに話を流してくれると思っていたのに。
「詳しい状況を教えられるのは、お前さんしかいないだろう?」
それはそうである。
というわけで、反論できなかった雨妹はまたもや三輪車をかっ飛ばすのであった。