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561話 頼りになります

雨妹ユイメイが背負う女官に、チェンが礼の姿勢をする。


「ここは医局で、わたしは医官の陳と申します。やってきた病人には休める場所を与えましょう」

「……なるほど、医局か」


連れて来られた場所がどこかわかった彼女は、どこかホッとしているように見える。宮の主に敵対する妃嬪の関係者に出会わずに、安堵したのかもしれない。


「ここなら安心して休めるでしょう? あなた様が普段お会いするような方々は、ここには出入りしませんしね!」

「ふ、確かにな。わたくしも初めての場所である」


雨妹が茶目っ気を見せながら話すのに、彼女の吐息が首元にかかったので、もしかしたら微笑んだのかもしれない。


「以前こちらにお偉い方が滞在した例を挙げるならば、太子宮のジャン貴妃くらいでしょうなぁ」


彼女が話すのに、陳もそう言い添える。江貴妃の時も雨妹が関わっていたので、今回も今も雨妹案件なのがなんとも言えない気持ちになるけれども。


 ――人助けだもん、仕方ないんだもん!


 雨妹は心の中でお説教する立彬リビンに言い訳をしていると、陳が医局の奥の部屋に案内してくれることとなった。雨妹は背負ったまま女官をそちらへ連れて行くと、部屋にある牀に寝かせた。


「顔色も悪いですし、少しお眠りください。そうすればご気分も楽になりましょう。しばらくしたら起こしますよ」


彼女もここまでくれば遠慮するのはむしろ良くないと思ったのか、陳の提案を素直に受け入れる。


「かたじけないが、世話になる」


彼女はそう言ってから目を閉じると、すぐに寝息が漏れ聞こえてきた。雨妹たちに対して取り繕えないくらいに眠そうだったし、やはり相当具合が悪かったのだろう。


「色々大変なのでしょうね」


雨妹はそう呟きつつも布団をかけてやりながら、彼女の服の乱れを整えてやる。その際、ふと襟巻きがきつめに巻かれているのに気が付いた。


「襟元を少し楽にしましょうか」

「そうだな、息苦しかろう」


陳も同意したので、雨妹が襟巻きに手を伸ばして緩めてやる。


「うん?」


彼女の喉元が露わになると、陳がそれに気付いた。


「この辺りが腫れているな」


陳が指で示したのは喉ぼとけの辺りである。


「本当だ」


きっちりとした襟巻きは、この腫れを隠すためのものだったのかもしれない。


 ――そういえば、ちょっと厚着かな?


 最近涼しくなってきたけれど、人よりも寒がりな格好なのは確かだ。


「ふぅむ」


雨妹は彼女の体調不良について色々と気になることが出てきたが、寝ている人の側で話し続けるのも良くないだろう。

 そんなわけで雨妹と陳は場所を移し、いつもの陳の作業部屋でひとまずお茶をすることになった。


「そらよ」

「ありがとうございます」


特製の薬茶を淹れてくれた陳に、雨妹はお礼を言ってからのどを潤す。そろそろ冷えた井戸水ではなく、温かいお茶が美味しい季節である。


「で? お前さんはあの人の素性を知っているのか?」


ズバッと陳に聞かれたので、雨妹も「知りません」とズバッと答える。


「わかっているのは今日、イェン淑妃の一団だって教えられた方々の中にいた女官だっていうことくらいですね」


雨妹はそう述べてから、改めて彼女を見つけた経緯を説明する。


「私がごみ捨てをした帰り道に、ひっそり建物の隙間にいたんですって。身の上がどうのというよりも、そっちの方がびっくりですよ」

「ははぁ、確かにそりゃあ驚くか」


雨妹の言葉に陳は目を丸くするも、やがて「やれやれ」と息を吐く。


「とはいえ、今時の人である燕淑妃の関係者と知っていて連れてきたとは、お前さんも人がいいな」

「それでも、具合が悪そうなのを放っておけませんもの」


そう言って口を尖らせる雨妹に、「お前さんらしいなぁ」と陳が笑った。

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