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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十三章 新たな後宮模様

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558話 聞き込みしてみた

王美人の新居掃除を終えて、雨妹は家に戻って来たのだが。


 ――燕淑妃かぁ、そもそもどんな人だろう?


 面倒を避けるにしても、その人となりを知っておいた方がいいに越したことはない。「彼を知り己を知れば百戦殆からず」と前世でも昔の偉い人が言っていたではないか。燕淑妃側の行動範囲を知らなければ、うっかり遭遇を避けることもできやしないのだ。

 というわけで、聞き込みをしようと思った雨妹であったが、噂の燕淑妃は後宮内での時の人のようで、わざわざ集めようとしなくても噂は入ってくる。

 その内容は、おおむねこのようなものだった。


「大変お美しい人である」

「年齢不詳の見た目」

「密かに道士を集め、若返りの秘術を施させているらしい」


雨妹が聞いたのはだいたいこの三種類で、美容に関するものばかりだ。


 ――燕淑妃が変な噂まで立っちゃうくらい、美人さんってことなんだろうけれどさ。


 けれど華流ドラマだと「美」というものを巡っては、物騒な話がついてまわるものだった。美しさのためには、金も他人の命も湯水のようにつぎ込むという話がざらにあった。なのでどうしても雨妹の中では、怪しい印象ばかりが膨らんでしまうのは確かである。

 まあ、このような雨妹の中での妄想はおいておくとして。


「見た目のことだけで、性格とかそういう話があんまりわからないんですよねぇ」

「ははぁ、燕淑妃ねぇ」


夕食時の食堂にて、雨妹が汁麺をすすりながら集めた噂話を披露するのに、目の前に座る美娜は首を捻っている。


「確かに他の有名どころの妃方と違って、そもそも噂になるようなお人ではないねぇ」

「やっぱり、そうなんですかぁ」


美娜が告げることに、雨妹は唸る。


「アタシは燕淑妃を遠目だけれど見たことがあるよ、お美しかったねぇ! 公主様がいらっしゃるし、その公主様もお嫁に出ているから、それなりのお歳なのは確かだろうけど。そうは見えない方なんだ」

「へぇ~!」


なるほど、年齢不詳という噂は真実らしい。

 一方で幸いなのは、燕淑妃の子が公主であり、既に臣下へ降嫁しているのであれば、大偉の時のような太子の座を巡る問題には発展しないことだろう。けれどそんなにも美人な燕淑妃の公主なら、母に似ればさぞかし美人であったことだろう。


「燕淑妃の公主殿下も、やはり美しい方なのでしょうか?」


雨妹が若干ワクワクして聞くと、美娜はなんとも言えない顔になった。


「公主様の方はアタシも実際に見たわけじゃあないが、そうらしいね。その美しさに他国の王から目をつけられて、妃にと欲されたこともあったね。けどそれも皇太后陛下の大反対もあって、結局臣下の方のもとに嫁いでいかれたのさ」

「ありゃりゃ」


熱い恋のお話しが出るかと思いきや、なかなかの泥沼話だった。他国の王族と縁付くと燕家の発言力が増すので、皇太后は自分の権威を越えさせるのが我慢ならなかったのだろう。


「その公主殿下の降嫁先を決めるのに、殿方の間で取り合いになったりしなかったのでしょうか?」


燕淑妃の家が中立とはいえ、だからこそ派閥に取り込む余地があるとも言える。おまけに当人がかなりの美人となれば、嫁に欲しいと考える男たちが大勢いたことだろう。


「それなりに騒動になったみたいだよ。色々な有名どころの公子方がその公主様を嫁に欲して、それにもまた皇太后陛下が気分を害してねぇ」


結果、皇太后が満足する降嫁先から選ぶことになり、かなり格下の家となってしまったらしい。なんというか、とことん皇太后に振り回されている公主である。


 ――けど、なにが幸せかは人それぞれでもあるか。


 そうやって巡り合った夫と、案外気が合っているかもしれない。けれどだからといって、さんざん邪魔をされては不満を溜め込むものである。


「お可哀想な目に遭うことが多かったからだろうね、燕淑妃の宮はとことん内緒事が好きで、他人を信用しないって話さ」


美娜の言葉に、雨妹は目を瞬かせる。


「それって、秘密主義ってやつですか?」

「そうそう、そんな感じさね。仕えるのも宮女に至るまで、主への忠誠心っていうの? それが強いって聞くよ」

「へぇ~!」


秘密にされると、逆にがぜん興味が湧いてくる雨妹である。

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