538話 闖入者たち
「え、宇くん!?」
「馬飛ばしてきちゃった♪」
驚く雨妹に宇がヒラヒラと手を振るが、その視界に割り込む姿がある。
「雨妹~!」
宇を強引に退かして雨妹に抱き着くのは、なんと何静である。
「静静までいる!?」
「へへへ」
驚き過ぎて固まる雨妹の肩に、静が頭をグリグリとこすりつけてくる。
「お二人とも、あまり騒々しくするとご迷惑です。
あと旅装のままですので砂埃が立ちますよ」
その何姉弟の背後から、毛露が注意した。
そう、なんと何家の主従が揃っているのだ。
「やれやれ」
一気に騒々しくなった扉前で、明が困り顔で雨妹を見てくる。
今部屋にはジャヤンタという内緒の存在がいるので、扉を長く開けておくのは良くない。
「あ、とりあえず中に入って……いいのかな?」
雨妹は彼らに入室を促そうとして、それを自分が決めていいものかと迷う。
「いいから、速やかに入ってもらえ」
すると明がそう進言してきたので、雨妹も屋内に招き入れようとして、途中でハッとして周囲を警戒する。
「ウチの殿下はいらっしゃらねぇよ」
雨妹の死角からそう言われ、またもやギョッとした雨妹がそちらを振り向けば、飛が立っていた。
「把国の殿下の用事が済んでいねぇんで、身元を保証している主も動けずだ」
「そうそう、大哥とダジャは置いてきた!」
宇もそう言ってきたので、本当にあの大偉はいないらしい。
「っていうか、殿下は行きたくなさそうだった」
静が補足するが、「行きたくない」の原因として思い浮かぶのは、沈の顔である。
大偉と沈は性格的に合わないだろうなとは、雨妹も深く考えなくとも思い至る。
だが大偉がこの場にいないというのは、雨妹の心の平穏には良い事だ。
ところで、飛は大偉の配下だと思っていたのに、その大偉と別行動をして良いのだろうか?
まあ、いいからここにいるのだろうけれども。
こうして何姉弟を部屋に招き入れることになったのだが、見知らぬ一団が突然乱入したことで、気が付けばリフィとジャヤンタの口論が止まっていた。
「お前たち……」
この双子の突然の登場に、立勇が目を丸くしている。
「友仁殿下、大事な客人が佳より到着しました」
「わかった、こちらに座ってもらおう」
雨妹がこの場の主である友仁に何姉弟を紹介すると、雨妹たちの話は漏れ聞こえていたのだろう友仁が頷いて着席を促した。
けれど突然人が急に増えたので、卓を増やす必要があるので、胡霜が別の部屋に避けていた卓を出している。
そしてリフィとジャヤンタだが、この二人とていつまでもボーッと立っているわけにもいかない。
リフィはなんとか気分を切り替えたらしく、新たな客のためのお茶を用意しようと、この部屋の隣に備え付いている竈へ追加のお湯を取りに行く。
途中から来た形のジャヤンタは、席を双子と同じ卓に用意されることとなった。
「お二人とも」
席が用意されている間に、毛が双子をささっと髪を整えたり顔を手巾で拭ったりと身繕いをしてから、まずは友仁への挨拶に送り出す。
「友仁殿下には、お初にお目にかかります。
何家の宇と申します」
宇が友仁の前に膝をつき、優雅な仕草で挨拶をしてみせた。
「同じく、静です!」
静が宇の真似をしながら、こちらは元気に声を上げる。
「友仁という、よろしく頼む。
それに今はお茶を楽しむ時間なんだ。
そう構えず、自由に話していいからね?」
友仁が双子に声をかけて微笑むと、ちょうど卓の用意が整い、リフィがそちらで奶茶を淹れ始めた。