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531話 愚か者の結末

それから雨妹ユイメイたちが兵士に誘導されて着いたのは、離宮から少し離れた辺りであった。


「こちらの茂みに、兵士が一人とこの者が隠されていました」


そう言って指し示された茂みの奥に、二人が横たわっていた。

 まるでこの場に捨てられたかのような格好であり、両者ともに血まみれで、背中から剣で斬られたような傷痕がある。

 二人は既に息がないのが確認されているという。


「……!」


まだ生々しい死体に、さすがの雨妹も気分が悪くなるのをぐっとこらえる。

 それでも兵士が「手引きした者を見つけた」ではなく、「手引きした者の跡を見つけた」という言い方をしていたため、手引きした者は生きてはいないのだろうとは、雨妹としても予想していたことだ。

 殺されている二人のうち一人はこの邸の兵士の格好をした男で、もう一人は雨妹が知っている者であった。


「この人は……」


死体のもう一人は以前に「恩家と縁のある大店の娘だ」と言って、友仁ユレン付きになりたいと雨妹や胡安フー・アンと揉めた人物である。

 あのチー家の娘が「親しくなった方に招かれて」と言っていたので、離宮内の誰かが手助けしたのだとは想像していたのだが。


「愚かな、あの斉家に欲で釣られたか」


立勇リーヨンは想定内の裏切りだったようで、あまり驚いていない。

 なにはともあれ、雨妹と立勇が娘を友仁一行の一員だと認めたことで死体の一方の身元が明らかになり、現場は早急に片付けられた。

 兵士はシェンの配下の末端であり、あの娘と二人で宜の者を引き入れたのだろうということである。

 このような形で命を散らした娘を、雨妹は憐れに思う。


「尼寺行きとなった皇太后派に与していた実家から、なんらかの利を得るように圧力があったのでしょうけれども。

 下っ端仕事であれ友仁殿下に真面目に仕えていれば、なんらかの恩恵があったでしょうし、命を落とすこともなかったのに」


しかしそんな雨妹に、立勇が眉をひそめて「ふん」と鼻を鳴らす。


「たとえ実家から圧力があったにしても、同様の身の上で一行に送り込まれた者は他にもいる。

 他の連中よりも手っ取り早く華やかさを手に入れたいと、欲をかいた結果であろう。

 下心を露骨に表し、利用される要因を作ったのは当人だ。

 憐れむ必要はない」

「まあ、そうなんですけれど。

 なんか気分がすっきりしないじゃないですか」


立勇の言い分もわかるのだけれども、雨妹は心にモヤモヤが残るこの結末に、重い溜息を吐いていると。


「どちらも正しい意見だろう」


言い合う雨妹たちに、沈がそう取り成す。


「それにあの娘とて、一人だけ貧乏くじとはなるまいよ。

 斉家の娘がすぐに後を追うさ。

 あちらもある意味哀れよ、斉家から捨て駒にされたのだから」

「捨て駒とは、どういうことですか?」


なんとも不穏な言葉に、雨妹はぎょっとする。

 思えば雨妹が巻き込まれたこの騒動の最初は、あの斉家の娘が沈の妃になるために、なんとか近付こうとしていると思われたことだった。

 それが宜の兵士を侵入させる手助けをしたとなると、沈の妃の座争いは表面上のことだったということになる。

 これに沈が静かな口調で答えたところによると。


「斉家の主だった者たちは、とうに宜へと逃げ去っている。

 まだいる連中は、残りかすのようなものだ」

「残りかす……」


ここへきて、さらなる驚き情報がもたらされた。

 揚州の大半の地域でまだ影響力を残している斉家の中心を担う者が、実はとっくにいなかったとは。


「あの娘を始めとする残された連中は、宜が崔での工作活動をするための足掛かりでしかなく、その身の安全などどうでもいいのだよ」


なんとも殺伐とした裏事情であるが、これに立勇が気になったことを尋ねる。


「宜の政情が混乱しているのならば、他国からの亡命者を手厚く持て成す余裕などないのでは?」


立勇の指摘に、沈も否定しない。


「そうだな、遠からず斉家も消えるさ」


さして大事でもない口調でそう言う沈に、立勇がなんとも言えない顔になった。


「皇帝陛下に助けを求めた真の理由は、そちらでしたか」

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