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527話 ここで縁切り

 ――つまりこの人はおかしくもなんともない、一般的な斉家の人間っていうことだよね。


 大公として不可の烙印を押された一族なのだ。

 ホァン県主のように、この娘周辺だけが特別おかしかったわけではないだろう。

 元は大公であったという気概なんてあったものではなく、ただ他人を見下したい欲だけが感じられる。

 それにしても、いい加減に面倒であるのは確かだ。

 雨妹ユイメイは彼女の言い分に付き合うのが煩わしくなってきた。

 一度はっきりと言い聞かせておかないと、延々と付き合わされる気がする。

 たとえ今牢に入れても、斉家への協力者がどこにいるのかわからない以上、逃げ出されてまた同じことを繰り返されるかもしれない。

 そう思い、雨妹は友仁ユレンに会話の許可を願う。


「友仁殿下、あの者と話をしてもよろしいでしょうか?」

「いいよ、でも危ないことはしないでね?」


友仁が了承したので、雨妹は娘の方へと近付いていく。

 その傍らに即座に立勇リーヨンが付いたのは、お目付け役だからだと思われた。

 そんな雨妹を、シェンが面白そうな表情で見つめてくるが、そちらはまるっと無視だ。

 雨妹は彼女の前に立つと、冷めた目で問いかけた。


「では聞きますが、あなたはなにを為してみせたというのですか?」

「……は?」


これに彼女は素で声を漏らすが、雨妹は言葉を続ける。


「皇子殿下方に特別扱いを受ける程の功績が、あなた自身にあるのですか? 助けを求めるのであれば、まずはそれを主張するべきでしょうに」


雨妹の指摘に、彼女はカッと頬を赤らめた。


「わたくしは、斉家の媛でしてよ!」

「それがどうしたというのです」


彼女の渾身の抵抗に、しかし雨妹はさらに視線を冷たくする。


「斉家は多少格があるかもしれませんけれど、大公家でもない、後宮に妃がいるわけでもない家柄を誇られても困ります」

「なにを言うか!?」


彼女は怒鳴り返すものの、反論の調子はどうにも弱い。


「確かに、私は斉家なんて家を知らなかった」


そこへ友仁がボソリと本当のことを言うのが、彼女の耳に届いたらしい。

 ギョッとしたように目を見開いている。


「友仁の歳だと、名を聞かずとも不思議でもないか。

 百花宮で話題に上ることもあるまいな」


沈も友仁の反応を無知故ではないと補足したが、雨妹はそこへさらに追い打ちをかける。


「だいたい斉家に宜国へ媚びへつらう以外に、なんの能があるというのですか?

 他人の力をあてにするばかりでは、結果手元になにも残らないのに」


雨妹は話しながら、だんだんとムカムカが大きくなってくる。


「しかも宜なんて、戦を飯の種にするような国ではないですか。

 戦なんて儲けるのは最初だけで、後は消耗するばかりの損な行いですよ」


前世では二度もあった大戦の爪痕がいつまでも癒えない世界を経験し、今世でも父は戦乱の後始末に苦労している。

 あんな大変なことを商売にするなんて、雨妹としては信じられないことであった。

 彼女は雨妹に言い返せず、怒りで頭が煮えたぎっているように顔を真っ赤にして身を震わせると、我慢ならないというように叫ぶ。


「皇帝だって戦好きで、腕力で権力を得たではないか!?

 わたくしたちだけが悪し様に言われる筋合いではない!」

「ぁあ!?」


これに低い唸り声を上げたのはミンだった。


「ひっ!」


明から剣呑な気配が漏れてくるのに気付いた斉家の娘は、怯えて後ずさる。

 戦乱で稼ぎを得る片棒を担いでいたというのに、戦う者の威圧にあっさり怯えるとは、呆れるしかない。

 しかし明が怒るのも当然で、今の発言は、現皇帝が己の欲望のために戦に身を投じたと言わんばかりだ。

 戦乱で父に付き従った明には、到底受け入れられない意見だろう。


 ――あの戦乱を戦い抜いた人たちが、好き好んで戦ったとでも言うの?


 自らは戦を知らないし知ろうともせず、戦を金勘定でしか見ていない斉家の媛という娘を、雨妹は心底軽蔑する。

 これには宮城が黄家を恐れながらも、斉家はさっさと見放した理由が理解できようというものだ。

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