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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十二章 国主の一族たち

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523話 いきなり乱闘

リン以外の落ちてきた者たちは全員、姿を隠すような格好をしているが、服の隙間にちらりと見える浅黒い肌の風貌は、明らかに崔国人ではない。

 今の状況であり得るのは宜国人であろう。


「雨妹、退避しろ!」

「はいっ!」


立勇リーヨンに指示された雨妹ユイメイは、即座に来た道を戻り、遠目に状況を確認できるあたりまで下がる。

 するとどこからか兵士が現れ、無言で傍についてくれた。

 この人は確か、この通路の途中を見張っていた人だ。


「どうも」

「……」


雨妹が一応挨拶をすると、目線で応じられる。


「やれやれ」


そしてあちらでは、林がぼやきながら服の埃を払う。


「そちらに迷惑をかけずに片付けるつもりでしたが、申し訳ない」


全く申し訳なさそうではない顔で告げる林の周囲で、同じく落ちてきた他の者たちがのそりと起き上がって動き出す。

 すると林は流れるように彼らを踏みつけ、殴り、無力化していく。


 ――おお、林さん強い!


 なるほど、都からの道中でシェンが護衛らしきものを常に傍に置いていなかったのも頷ける。

 下手な護衛よりも林の方が強いに違いない。

 そしてこの様子を、当然立勇たちも傍観しているわけにはいかない。


「くそぅ、面倒な!」

「なんてこったい!」


結果その場で乱闘が始まってしまい、それほど広くはない通路でぎゅうぎゅう詰めになる中で、立勇と胡霜フー・シュアンもそれぞれに戦う羽目になった。

 見るからに暑苦しく、雨妹は巻き込まれないようにもう少し下がる。


「お前、泳がせるための餌にしたか!?」


立勇が剣を振るいながらジロリと横目で睨むのに、林は「おお怖い」とおどける。


「正確には、餌の世話係ですかね」

「あんた、私たちを利用したね!?」


しれっと答える林を、胡霜が棍をブン! と振って敵を薙ぎ払いながら追及する。

 それに林が「ははは」と笑った。


「あてにするならば、確実に敵ではない者を選ぶのは当然のこと。

 あなた方が頼もしくて助かります」


悪びれない林に、雨妹はいっそ感心する。


 ――林さんって、やっぱりあの沈殿下の部下なんだなぁ。


 雨妹は妙に納得してしまう。

 おそらく林は、誰にとっても良い結果を出そうと考えていない。

 沈にとって良い結果であれば、味方である友仁ユレン側に不満が出ても気にしないのだろう。

 それにしても、大勢が急に湧き過ぎなのだが、ひょっとして林が引き連れてきたのか?

 いや、チー家の娘が侵入したのとほぼ同時にこの場にいるのだから、彼女が手引きしたと見るのが自然だ。

 それでも、彼女と林が同時に現れたのも怪しい。

 ところでこの大騒動の中、その斉家の娘は放置されていた。

 逃げないように縄で拘束されているため、避難するにも転がって隅に寄るくらいが精々である。


「ひっ! お前たち、私を助けなさい!」


彼女がそう叫ぶものの、その言葉は一体誰に向かって言っているものなのだろうか?


「なにをしている、わたくしを誰だと思っているの!?」


彼女は周囲に向かってわめいているが、宜国人であろう乱入者は彼女に構っていられないし、林は全くの無視だ。

 立勇も胡霜も、彼女をわざわざ抱き上げて安全圏に動かす必要性を感じないようで、ちらっと視線を寄越しただけである。


 ――自分で頑張って、安全なところまで転がりなよね。


 あの娘が自分で蒔いた種なのだから、雨妹としても誰かに頼んで助けてやりたいとは思わないし、そこまでお人よしでもない。

 このように、雨妹は状況を見守っていると。


「こりゃあ、おおごとだぁ」


そこへ呑気な声がしたかと思ったら、様子を見に来たのかリュが現れた。


「友仁殿下は?」

「安全な場所まで脱出したさぁ」


雨妹が問うと、そう答えが返って来る。

 ミンもついているのだし、友仁の方は大丈夫だろう。

 呂がやってきたからか、雨妹についていた兵士はすっとどこかへ姿を消す。

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