511話 土産で盛り上がる
雨妹がリフィと市場へ出かけた、翌朝。
「友仁殿下、おはようございます!」
休日明けの雨妹は立勇と一緒にいつもの朝の体調伺いのための訪れ、友仁に元気に挨拶をする。
ちなみに昨日は雨妹が休みであったため、食事では口にしたことのないものの飲食は止めてもらったのだが。
友仁は雨妹を見て、「うふふ」と微笑む。
「昨日、土産を貰ったよ」
友仁からそう言われたので、どうやらあの火龍果はちゃんと友仁に渡されたようだ。
果物なので早めに食べてほしいと言って胡安に渡し、友仁が食べられなかった場合、他の皆で分けてほしいと頼んだのである。
友仁には食べられなくとも、あの見た目で楽しめると思ったのだが、胡安も立勇と似たような反応だったので、果たして本当に渡してくれるのか、若干心配だったのだ。
「まあ、どうでしたか?」
ワクワク顔の雨妹に、友仁が満面の笑みで応える。
「すごいねぇ、あんなに目が痛くなる色の食べ物があるなんて。
けど甘くて美味しかった!」
「そうでしょう、そうでしょう!」
雨妹は友仁の言葉にいちいち頷く。
友仁のこの反応を見ただけでも、立勇の反対を押し切って火龍果を買った甲斐があるというものだ。
さらには胡霜も火龍果の見た目の奇抜さを面白がり、「ぜひ絵に残すべきだ」と言ったので、友仁は母である胡昭儀への土産になるかと考え、絵を描いてもらったのだという。
「ほら!」
友仁が広げた紙には、確かに火龍果だとわかる絵が描かれている。
それにしてもこのようにささっと絵を描いてもらえるあたり、一行には旅の様子を記録する役目の絵師が同行しているのだろう。
「私、都には国中のあらゆるものが揃っていると教えられたけれど、その土地にいかないと見られないものや、食べられないものってあるんだね。
すごいね!」
「それほどに話が盛り上がったのであれば、お土産を買ったこの雨妹も本望です」
友仁の喜びように、雨妹が感激していると。
「今度、売ってあるお店に案内してね!」
友仁がちゃっかりお出かけのおねだりをしてくる。
雨妹もこれにはなんとも答えられず、苦笑して胡安をちらりと見るに留めておく。
だが視線を向けられた胡安が渋い顔をしないので、希望はあるようだ。
――帰るまでに、外出ができるといいね。
雨妹たちがそんな会話で和んだ後、友仁が「そうだった」と声を上げる。
「あのね、叔父上から『朝食の席で青い目持ちとしての問題共有をしたい』と言われたけれど、断ったから。
『私が伝えるから問題ありません』って」
「ありがとうございます!」
友仁の気遣いが素晴らしすぎて、感激の舞を踊りたくなった雨妹であった。
それから友仁の朝食に付き合ってしばらくして、ジャヤンタの体調を診に向かう。
「おはようございます」
雨妹は挨拶をしながら、友仁と共に部屋に入る。
いつものように立勇が扉の外を守り、明と胡霜が中へ同行する。
ジャヤンタは呂に見張られつつ、窓辺に座って外を眺めているところであった。
「……」
無言でこちらに視線を寄越すジャヤンタに対して、明と胡霜は相変わらずそれぞれの武器を手にして威圧の体勢だ。
その明と胡霜に挟まれるようにして、友仁が椅子に座る。
その様子を見たジャヤンタは、微かに眉をひそめる。
どうやら、まだ友仁を羨む気持ちが大きいようだ。
このジャヤンタの体調伺いも回数を重ねており、友仁はジャヤンタの態度にも慣れたもので、ただニコニコとして座っている。
その一方で、良い変化もある。
卓に置かれた食事の皿を確認すれば、以前は食べ残しがあったのが全て空になっていた。
――ジャヤンタ様、ちょっとだけふっくらしてきたかな?
やはり、寝たきり生活だったのが、身体を起こして牀から出られるようになったのが大きいだろう。
動かないと腹も空かないのだから、寝たきり生活なのと、起き上がって細々と動く生活とでは、やはり運動量が段違いである。
「食事が進んでいますね。食欲があるのはいいことです」
「ふん」
雨妹が微笑んで話しかけると、ジャヤンタは答える代わりに鼻を鳴らす。
雨妹へのこの態度も変わらないようだ。
だがこれも病院嫌いの患者なのだと思えば、なんてことはない。