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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第五章 海の見える街

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50話 外への誘い

 するとそこには既に太子と、雨妹と同じく着替えて腰に剣を下げた立彬(リビン)がいた。

 けれど二人とも服装が地味で、一見どこぞの商家の子息とそのお供のようだ。

 どうしてそんな格好なのか気になるところだが、まずは待たせてしまったことを謝罪する。


「お待たせしまして、申し訳ありません」


深々と頭を下げる雨妹に、太子がニコリと微笑む。


「いいんだよ、急に声をかけたのはこちらだからね」


全くもってその通りなのだが、それにしても太子が他の宮女を連れている様子がない。


「あの、何故私を呼んだのですか? 太子宮の宮女は?」


雨妹の質問に、太子が答えたところによると。


「私が信頼している女官や宮女を、今はできるだけ太子宮から動かしたくないんだよ。

 よからぬことを考える人たちがいるからね」


その信頼する者たちの代わりとして、雨妹に目を付けたということか。

 つまり自分はよからぬことを考えない女だと認識されているというわけで。


「えっと、じゃあ他の人は?」


「いないよ、お忍びだからね」


この外出がお忍びとか、今初めて聞いたのだが。

 いやでも、それならば太子のこの格好の理由も納得できる。

 けどそれでも護衛が必要だろうに、ここには宦官の立彬しかいない。


「近衛は?」


この疑問にも、太子は微笑んで告げた。


立勇(リーヨン)がいれば十分だよ」


 ――立勇? 立彬じゃなくて?


 もしやこの剣を下げた男は、立彬ではないのだろうか。


「立勇さんは、双子の兄弟でもいますか?」


雨妹の疑問に、立勇は眉を微かに動かす。


「そういうことにしておくんだな」


「そうだ」とも「いない」とも違う答えに、雨妹は普段通りの顔を張り付けたまま、内心では壮絶に嫌な顔をしていた。


 ――絶対面倒臭いヤツだこれ!


 今から逃げ戻ってもいいだろうか?

 しかし当然そんなわけにはいかず。

 かくして雨妹は、非常に胡散臭い太子のお忍びのお供をすることになった。

 ……のだけれども。


「なにあれ!?」


「へー、珍しーい」


「面白ーい」


雨妹は現在一人、大通りの露店をウロウロしていた。

 その間太子と立彬(リビン)改め立勇(リーヨン)は、隣でぼうっとして待っており、どちらが供をしているのかわからない状況である。

 何故こうなったかと言うと。

 太子は馬車に乗って梗の都から出るらしいのだが。

 後宮の外へ出たことのない雨妹のために、内城の入り口から外城の入り口まで伸びる大路を少し歩いて行ってくれるという、太子の心遣いである。

 太子が徒歩で大通りを行くなんて大丈夫かと心配したのだが。

 この太子はどうも街を歩き慣れているようで、道行く人に溶け込めている。

 そしてむしろ全く溶け込めていないのは、雨妹の方だった。

 いや、雨妹とて最初は太子の歩みに後ろから静かに付いて行こうと思っていたのだ。

 日本のような便利な品が手に入るわけでなし、そうそう露店に惹かれたりしないぞとも考えてもいた。

 そんな風に斜めに構えていた雨妹だが、今は前言撤回したい。


 ――強がっててゴメン、外って面白い!


 興味をひくものが目に入ると、つい足を止めてしまう。

 そしてハッと気づけば、数歩先で太子たちが待っている。

 それを繰り返すこと数度。


「気が済むまで見ていいんだよ」


太子の許しが出たので、開き直って露店巡りをしているというわけだ。


「ああしていると、普通の娘に見えるねぇ」


「女の買い物は長いですから、待っているとキリがありませんよ」


興味津々で露店を巡る雨妹を見て微笑ましそうな太子に、立勇はそんな悟ったようなことを言う。

 二人のそんなやり取りが聞こえつつも、雨妹は目の前の物を眺めるのに忙しかった。

 太子公認での露店巡りだなんてもうないだろうから、この機会は最後かも知れないのだ。

 梗の都は港が近いらしく海からの渡来品もあり、雨妹が初めて見た物もあれば、現代日本の便利グッズに近いような物まであった。

 特に気になったのが、動物や花の形などの模様にくぼみが彫ってある鉄板である。

 サイズは小さめのホットプレート並みで、例えばこれに卵を流せば可愛い卵焼きができるわけだ。

 これで美娜(メイナ)に可愛いお菓子を作ってもらうのはどうだろうか。

 雨妹がうっとりと鉄板を眺めていると。


「欲しいのかい?」


背後から、太子に声をかけられた。


「欲しいっていうか、珍しいなって思ったっていうか、でもやっぱり欲しいかもと思わなくもないっていうか」


大人なんだから欲望くらい抑えられるぞと言いたかったのだが、最終的に欲しいが勝ってしまう。


「……店主、いくらだ?」


結果、立勇がその露店にお代を払ってくれた。

 またしても買ってくれるらしい。

 この鉄板は雨妹の部屋まで届けてもらうこととなり、露店巡りに満足した雨妹は太子のお供に戻る。

 そしてようやく門に着くと、御者を乗せて待っていた軒車(けんしゃ)という所謂箱馬車が用意してあった。


 ――おお、軒車って初めて乗る!


 軒車を前に、雨妹は気分が上がる。

 庶民が乗れるのは屋根も壁もない荷車のようなものなので、辺境から出て来た際も非常に辛かったものだ。

 しかし軒車に乗るのは雨妹と太子だけで、立勇は近衛として馬に乗って並走するようだった。

 これに不安になり、雨妹は立勇にススッと近寄る。


「あの、お忍びとはいえ仮にも太子殿下なのに、色々大丈夫なんでしょうか?」


小声で尋ねる雨妹に、立勇は眉を上げた。


「視界に入らないだけで、露払いはしっかり配置してある」


なるほど、影の護衛はちゃんといるというわけか。

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