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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十二章 国主の一族たち

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496話 自分事もちゃっかりと

 ジャヤンタの今後については、ジャヤンタ自身か、もしくはジャヤンタにいてもらわなければ困る宜の反商人連合の勢力に任せればいい。

 立場が「婚約者」でしかないリフィに、ジャヤンタの一生を支え続ける人生を押し付けられる筋合いはないだろう。

 それに例の事故当時、周囲の思惑は別にして、リフィがこうしてジャヤンタを安全な場所へ避難させて、命の危険がないことを保証させただけでも、彼女は婚約者としての義理を果たしたといってもいいのではないだろうか?


 ――もし拗れても、十分に手打ちにできる功績なはずだよね。


 二人の関係が正常なものに改善されてもなお、リフィがジャヤンタを助けるために傍にいたがるかどうかは、リフィとジャヤンタがどれだけ密な関係を築けていたかによるだろう。

 ジャヤンタとリフィから「宜のため」「丹のため」という建前が取り払われてしまえば、残るはお互いの本性であろう。

 結局は、婚約者としてリフィとの愛をしっかりと育む努力をしていなかったジャヤンタは、その行いが全てを失った後で返ってきているとも言える。

 そしてリフィも、全てを失ったジャヤンタに愛を望まず、己の欲を優先させた。

 つまりはこの二人は、互いに互いを見ておらずひたすら自分だけを見ていた、婚約者としてはどっちもどっちなのだ。


 ――それに今の私は、いち医官助手だ。


 さらには、雨妹ユイメイシェンに頼まれた相手は、あくまでリフィである。

 ジャヤンタの看護は、言い方は悪いがリフィの問題のついでだ。

 リフィの問題が解決すれば、ジャヤンタの問題も自然と解決するだろう。

 少なくともジャヤンタが今後どうするのか、王太子として宜に返り咲くのか、どこかで静かに余生を過ごすのか、そうした人生の選択を手伝うまでは依頼されていない。


 ――やっぱり、ジャヤンタ様には早くどこかに行ってもらおう!


 改めて、そう決意する雨妹であった。



このように朝から脳みそを大いに回転させた雨妹はその後、リュに頼んで何宇ホー・ユウに手紙を送ってもらい、沈にもリフィへの誉め言葉を増やすようにお願いの木簡を渡してと、非常に忙しかった。

 さすがに疲れた雨妹は、友仁ユレンに誘われておやつ休憩を挟んで心を慰められてから、台所へと向かった。

 目的はもちろん、ボルカ料理長からバクラヴァの作り方を教えてもらうためである。

 というわけで、ボルカが兵士の立ち入りを嫌うので、いつものように立勇リーヨンには外で待ってもらい、雨妹は一人台所へと入った。


「どうも、雨妹です!」

「ふん」


雨妹が名乗ると、奥からボルカがこちらを見て、目線で中へ招いてくれる。


「お邪魔しま~す」


忙しく作業をする料理人たちの間を縫うようにしてボルカの元へたどり着くと、早速目的について述べた。


「はん、バクラヴァをか」


ボルカがそう言って目を細めて見てくるのに、雨妹はバクラヴァの美味しさを懸命に語る。


「あのサクッとしていてジュワァッとなる食感がすごくて、ぜひ後宮の台所番への土産話に教えてあげたく思います!」


身体中を使って食感の感激を表す雨妹に、ボルカが感心と呆れの混じった表情になる。

 料理人も呆れるくらいに食いしん坊だということだろうか?

 けれどそれは雨妹本人も自覚があるからいいのだ。


「お前さん、バクラヴァをそんなに気に入ったのか」

「はい!」


ボルカの問いに、雨妹は満面の笑みで頷く。


「余所者だと、あの風味が苦手だっていう奴も、かなりいるんだがなぁ」

「まあ、人によってはそうかもしれませんね」


ボルカが雨妹の食いつきに戸惑うのは、そうした理由らしい。

 確かに乳製品の香りやらこってり感が苦手な人は、拒否感を示すかもしれない。

 ボルカとしては、お国料理を披露しただけであり、それが客人にとって美味しいかは関知しないつもりだったようだ。

 だが雨妹はあのこってり感がいいのだし、皇子である友仁も乳製品が身近な食品だったので平気そうだった。

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