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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十二章 国主の一族たち

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481話 肯定感の育て方

今までの話を踏まえて、雨妹ユイメイはリフィの現状を想像したものを語る。


「リフィさんはせっかく大変な大きさの岩を懸命に上ってみせたのに、『これが出来るのが何程のことか、あちらを上れないと認められぬ』とさらに大きな岩を示される。

 それを延々と繰り返された、という感じでしょうか」

「えぇ!? 可哀想だよ、狡いよ!

 一つは上ったんだから褒めてよ!」


友仁ユレンが両手をにぎにぎさせつつ、口を尖らせて文句を言う。


「これほど酷くない場合でも、本人は十分に能力や功績を認めているのだけれども、その際に褒める言葉や態度を一切表に出さないということもありますね」

「いるね、冷静で落ち着きあるように見られたいのか知らないけれど、そのせいで言葉足らずになる奴らが」


胡霜フー・シュアンが妙に実感の籠った意見を述べるので、そういう性格の人物と行き当たったことがあるのだろう。

 リフィの現状に納得し難い様子の友仁に、雨妹は解説する。


「人は褒められなければ、己の能力が人生を切り開くだけの強さがあるものだという自信が持てません。

 そうした人は己の価値を低く捉え、強く見える人に依存し、能力を搾取されることに繋がってしまうのです」


これを聞いた友仁なりに考える仕草をしていたが、やがてしゅんと俯く。


「……そういうの、嫌だな」


落ち込んでしまった友仁を見て、雨妹は「そうか」と気付く。

 この友仁も、文君ウェンジュンからそうした教育を受けた被害者だと、自身でわかってしまったのだろう。

 友仁は幸いにそこから救い出すことができたものの、その過去が彼の心の傷として残り続けることを避けるためにも、こうした正しい知識を得ることは大事だ。


「ですが逆に、ずっと適切に課題をこなして褒められてきた人は、やがて誰かに褒められることがなくとも、自分で自分を褒めて満足できるようになります。

 そうして自分の機嫌を自分で調節できるようになると、とても楽に過ごせるのですよ」

「そうなの?」

「そうなのです、ねえ立勇リーヨン様?」


雨妹が援護を求めて話を振ってみると、立勇は微かに眉を上げたが答えてくれた。


「確かに、教官や上司の顔色を窺いながら剣を振るのは、新兵の証拠だ。

 ある程度経験を積めば、己の調子は己でなんとかするもので、誰かに応援されないと調子が出ないなど論外だ」

「ですって!」

「なるほど!」


立勇の例えはわかりやすかったらしく、友仁が大きく頷いている。

 確かに兵士の調子の良し悪しとは、己や周囲の者の命に直結する場合が多いので、調子や機嫌を他人に頼るのは危ういだろう。

 そしてさらに意見を加えるならば、課された課題が困難か否かは、個人差が多大にあるという点もあった。

 例えば桁数の大きい暗算などは、数字に強い人であればササッと容易に解ける程度のものであっても、数字に弱い人にとっては頭が沸騰しそうになるくらいに負荷のかかる課題だろう。

 この両者の褒めの程度を同じに設定してしまっては、どちらかに不具合が発生してしまう。

 つまり、課題と褒めは個々人に合わせる必要がある、とても繊細なものなのだ。


 ――だから誰かを教育する時は、かなり詳細に見ておかないといけないんだけれど。


 雨妹も前世の新人教育で、幾度も失敗を繰り返した点であるので、その難しさがよくわかる。

 一方でリフィは、そうしたリフィのための教育を受けたようには見えない。

 しかも宮女の教育などの大勢を一緒に世話をする場合と違って、姫であったリフィは一対一で教育を受けたはずで、課題や褒めを個人に合わせるなど容易であっただろうに。

 恐らくは政略的な背景のために、わざと疎かな教育を受けさせられたのだろう。


 ――やっぱり私、高貴な人には生まれたくないな。


 お気楽に暮らせる一般人が一番幸せだ。

 そして友仁にも、これから幸せになってほしい。


「友仁殿下はこの雨妹がしっかりと見極めて褒めさせていただきますから、ご心配なく!

 いつかきっと殿下も、ご自身を褒め上手な皇子になれますよ!」

「うん!」


雨妹が胸を張って告げると、友仁が嬉しそうに微笑んだ。

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