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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十二章 国主の一族たち

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460話 見守る人々

***


「おや……」


友仁ユレンの昼寝の様子を覗いた胡安フー・アンが、その光景に目を丸くした。

 友仁がすやすやと眠っている牀に、雨妹ユイメイがもたれかかるようにして一緒に寝ていたからだ。

 二人でひそひそと語り合っている声は漏れ聞こえていたが、話をしているうちに雨妹まで眠くなってしまい、いつの間にか寝てしまったのだろう。


「本来ならば、無礼だと怒るべきなのだろうが、雨妹を起こせば友仁殿下も起きてしまうか」


同じようにその様子を覗いた立勇リーヨンは、そう小言を言いながらも、胡安と同じように目を丸くしていた。

 このように無防備に眠る雨妹というのは、実は珍しい姿である。

 特に雨妹にとって立勇は、これが立彬リビンの方であっても、「立場が上の偉い人」に当たるために、いつだって仕事の顔を作っているからだ。

 仲の良い宮女の美娜メイナに見せるような甘えを、立勇に対しては見せない。

 なので立勇は今、新鮮な気持ちで眠る雨妹を眺めていた。


 ――寝顔は年相応だな。


 あの青い目が閉じられているだけで、雰囲気が変わるのが不思議である。


「雨妹も、昨夜から疲れていたはずですしね、仕方ありません」


そんな立勇の驚きなど知る由もない胡安は、そのように雨妹を労わっていた。

 雨妹は体力であれば人一倍ある娘であるが、気疲れしたのであろうことは理解できる。


「雨妹はこのままにしておきましょう。私が見ておきますよ」

「すまないが、よろしく頼む」


友仁と一緒であれば雨妹の身も安全かと判断し、立勇はありがたく胡安に任せることにした。



こうして立勇は想定外に時間が空いたところで、その間に確認したいことは幾つもあった。

 特にリュから任せてあるジャヤンタの様子も聞いておきたいところだ。

 このように細々とした用事をこなしていた立勇であったが、回廊を通っていた際に目にした庭にて、シェンが木にもたれかかって立っているのに出くわした。


 ――どうやら、私を待ち伏せしておられたようだな。


 立勇が足を止めると、沈がひらりと手を振る。


「計算違いであった」


そしてそう述べてくるのに、立勇は眉を寄せた。


「友仁があれほどに雨妹にべったりだとはな。

 救われた恩義があるとはいえ、もう少し表面的なものだと思っていたのだが。

 おかげで釣りそこねた」


しかめ面で語る沈に、立勇は内心で「なるほど」と納得する。


 ――友仁殿下への調査不足だな。


 雨妹については案外色々とやらかしている娘なので、花の宴の後の短時間でも、調べれば色々とわかったことだろう。

 しかし友仁の情報は、表面上のものしか入手していなかったと見える。

 友仁は今の後宮の中で特に重要な立ち位置にいる皇子というわけでもないので、人の噂に上らないという方が正しい。

 しかもつい最近まで後宮の支配者であった皇太后に疎まれているとなれば、余計に人が近寄らないのだ。

 それに友仁が雨妹に懐くのは、雨妹に助けられたからというのもあるだろうが、それに加えてあの二人の交流頻度がそこそこあるから、という理由もあるだろう。

 というのも、友仁はあの文君の折檻からの逃走路確保がきっかけであったが、今ではそれが興じて宮城探索を趣味にしているのだ。

 その際に各所で掃除をしている掃除係の雨妹とは、それなりに遭遇するのだという。

 宮女と皇子という身分違いではあれど、二人はおしゃべり仲間なのだ。

 その友仁の日常を詳しく調べなかった、沈の落ち度と言える。

 いや、皇子の日常など調べるまでもないと、そう判断していたのかもしれない。

 友仁の環境を見て、己とたいして違いのない生活であろうと高を括ったのだろう。


 ――このお人は皇族というものを、ご自分を基準に考えておられるのか?


 沈は複雑な時代の中で幼少期を孤独に過ごしたが故に、人間不信であるのかもしれない。

 それがあの他人を振り回す傍若無人とも思える態度に繋がっているとしたら、理解できる話である。

 他人を信用していないから、いつでも自分の意見を押し通すのだ。

 あの大偉とはまた別の性質の、自己中心的性格と言えよう。

 孤独な幼少期といえば、あの雨妹とて同じであろうが、似たような環境でもこの育ちの違いが出るのは、やはり当人の性格の違いなのだろうか?

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― 新着の感想 ―
雨妹は充分立勇さんには甘えてると思うんですが立勇さんから見るとお仕事の顔なんですね。それは仕方ないことだとは思いますが立勇さんはどう思ってるのか。 そしてあらゆる人に立勇さんは雨妹担当と思われてるし、…
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