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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十二章 国主の一族たち

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459話 寝る前のお話

というわけで。

 昼寝をする友仁ユレンの寝所に雨妹ユイメイが付き添うことになった。

 立勇リーヨン胡安フー・アンは、先程の部屋でまだ話し合いを続けるようだ。


「ねえ、雨妹」


友仁が牀で横になりながら、雨妹を見上げてきた。


「私はリフィを良い人だと思う。

 叔父上の話を聞いても、そう思うんだ」


そう力なく話す友仁は、「間違っているのだろうか?」という不安で瞳を揺らしている。

 雨妹はそんな友仁の手を握った。

 シェンが語ったことは、リフィのある種の真実なのだろう。

 しかし先程友仁を気遣ってくれて、お茶を望まれて嬉しそうにするあのリフィの姿も、また真実であるはずだ。


「友仁殿下、他人から聞いた話も大事ですが、殿下がどう感じたかも大事です」


この答えに友仁が「ふぅん」と目を瞬かせてから、雨妹に問う。


「雨妹は、リフィはどんな人だと思うの?」

「そうですねぇ……」


雨妹は思案する。

 把国のダジャルファードといい、今回のリフィといい、こうしたお家騒動で心を病んでしまうのは、国主の一族に生まれた者が罹りやすい、病のようなものなのかもしれない。

 余程気を強くもっていないと、この病はあっけなく人を飲み込んでしまうだろう。

 それを防ぐには病の特効薬が必要であり、それはすなわち心から信頼する味方を常に傍に置いておくことだ。

 この特効薬があの父や太子にはあって、かつてのダジャルファードやリフィにはなかった。

 それが、病に罹る分岐点だったのだろう。

 それでも、ダジャルファードには「次期国王となる王子である」という縋ることができる心の拠り所があった。

 だからこそいつまでも王子という身分に拘り続けることで己の心を守り、その末にあのユウと出会ったのだ。

 そして「王子でなくなっても、死にはしない」ということを宇に教えられた。

 一方で、今もなおこの病に苦しめられているリフィにとって、「王女である」ことは、縋ることができる程に、確固たるものだったのだろうか?

 リフィの母の身分は、王女である己をより高みには上げてくれず。

 リフィが己を肯定するには、父王の母への溺愛だけが頼りであった。


 ――なぁんかさ、どこかで聞いたような話じゃない?


 リフィとは、「雨妹」のもしかするとあったかもしれない未来なのかもしれない。

 「雨妹」が今の前世の記憶がある自分ではなく、秘された公主として育てられていたならば、リフィのように政治の道具として担ぎ出されていたかもしれない。

 そうなれば、なんの後ろ盾もない「雨妹」に、周囲の顔色を窺う以外にどんなことができただろう?

 なにも自らの手で選ばせてもらえない身に見える未来とは、一体なんなのだろうか?

 そのようなことを考えながら、雨妹は言葉を紡ぐ。


「私には、リフィさんが泣いている迷い子に思えます」


どこへ行くべきかもわからず、周囲が勝手に言っていることに翻弄される、頼りない幼子。

 それがリフィだとしたら?

 雨妹の答えを聞いて、友仁がへにゃりと眉を寄せた。


「迷子は可哀想だよ、寂しいよ。

 私も散歩中に宮への帰り道が分からなくなった時、すごく心細いもの」


友仁はその時のことを思い出したのか、切なそうに目を潤ませている。


「ええ、とても寂しいと思います。

 なので、リフィさんを家に返してあげないといけませんね」


家、すなわちリフィがあるべき居場所へと。

 そのためにはまず、リフィとジャヤンタの関係性を正さなければならない。


 ――本人たちとちゃんと話をしてみないと、確かなことは言えないけれど。


 人間関係を複雑化させている、リフィの心を病ませる原因とは、おそらく「憐み」だ。

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