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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十二章 国主の一族たち

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455話 リフィとジャヤンタ

「いやいや、死ななくったってやり方はあるでしょう!」


雨妹ユイメイは思わず叫ぶ。

 せっかく宜が「王太子は死んだ」と発表してくれたのだから、それに乗ってジャヤンタではない一般人として、第二の人生を生きることだってできるではないか。

 怪我で片腕がないという不利を負っているとしても、この世界ではそうした者は元兵士や船乗りでは、それなりにいるのだ。

 そして彼らはちゃんと生きて生活できている。


 ――人生を諦めるのが早過ぎない!?


 憤然とする雨妹に、シェンが「気持ちはわかる」となだめるように言ってくる。


「他より極度に真面目に生きてきた者は、心折れた時に極端に走る。

 今のジャヤンタ殿下はそれだろうな」


そう語る沈だが、ということはジャヤンタがそれだけ真面目人間であったということなのだろう。

 雨妹にも、前世でそうした傾向には覚えがある。

 そのような人物には、近くに上手に息抜きをさせる者が必要なのだが、今のジャヤンタにはそうした存在がいない。

 つまり、ジャヤンタにとってリフィは息抜き相手ではないということだ。


 ――本人にそうまで言わせるなんて……。


 確かに今の状態のリフィがいると、逆にジャヤンタの心労の原因になるだろう。

 むしろそうまでジャヤンタを追い詰めて立てる今後の計画というのが、明るいものになるとは考え辛い。

 ところでこのリフィとは別に、丹国内では改善の兆しが見えてきているのだという。

 その兆しは、国王が病に臥せってしまい、兄王子が政務を取り仕切るようになってから現れた。


「リフィの兄王子が比較的理性的でまともな性格であるのが、希望であるな。

 根気よく弟王子に争いを手打ちにするように交渉し、やっとそれが実を結ぼうとしている」


兄王子側で暴走しているのは、妾妃とそれに群がる者たちであるようだ。

 妾妃の子として己の手勢が少なかった兄王子では、身内の内乱へと暴走する者たちを止められなかったのも無理はない、と沈は語る。

 一方で、弟王子が今回兄王子との戦いを止めようという気になったのは、単純に「金が尽きたから」である。

 金がない相手には、宜は兵士を売らないのだ。


「こちらはかなり血が上りやすい性格であると聞く」


それではたとえまともな手順で王位を得たとしても、宜という物騒な隣国がいる以上、余程優秀な腹心が上手く行き先を見てやらないと、結果戦乱一直線であったかもしれない。

 このような沈の考えに、雨妹も「うぅむ」と唸る。


「上手くいかないものですねぇ。

 せめて正妃の子である弟王子が兄で、兄王子が弟として生まれていれば、『血気盛んな兄を補佐する賢い弟』という組み合わせにもなり得たでしょうに」


思わずそう零してしまう雨妹に、沈は眉を上げてみせた。


「確かにな。

 王が子を儲ける順序を弁えていれば、そう揉めなかっただろうとは思う」


それとも、王子たちの王位を継ぐ機会が平等であれば、正常な競争を経た後に兄弟で協力することが最初から見えたのかもしれない。

 けれど「長子が継ぐ」というこれまでの慣例と、それぞれの母の身分差がそれを難しくしてしまった。

 さらには事がここに至り、自分たちが宜に踊らされたのだと気付いたとしても、多くの血を流してしまっては手遅れである。

 兄も弟も互いに「あの流された血は無駄であった」と認めることは、本当に難しいだろう。

 それでも兄弟共に、歩み寄りの努力をしているところであるらしい。

 だがここで懸念されるのが、リフィの行動である。


「リフィが今後どうするかにより、丹の兄弟王子の努力を台無しにすることになりかねず、そうなればその混乱の余波は崔にも及ぶだろう」


沈が崔の皇子として、まず心配するべきはそこであった。

 冷たいようだが、丹の問題は丹の国民で解決してもらう他はないのだ。

 現在の所、リフィはジャヤンタを隠すための演技として、「自分にはもう婚約者がいない」と周囲に思わせるために、懸命に沈へと色仕掛けをして、あたかも恋仲であるかのように振舞っているらしい。

 そして沈は、その演技に騙されたように演技をしているというわけだ。


「これに付き合うのも骨が折れる」


そう告げる沈だが、まあ愛だ恋だというのが、これまで彼の中にあまりない苦労であるであろうことは、雨妹にも想像できる。

 だがそのおかげで、リフィはジャヤンタを隠すことに成功していると思い込んでいるそうだ。

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