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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十二章 国主の一族たち

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454話 王太子の決意

あの隠し部屋とジャヤンタの存在に気付いたのは、リンであったという。


 ――まあ、リュさんが言うには、あの人も影らしいもんねぇ。


 丹の要請でリフィを受け入れたとはいえ、その行動に怪しい点がないか監視するのは当然のことだろう。

 そして林はかなり初期に気付いたというのだから、リフィも隠し方が杜撰だったと思われる。

 もしくはシェンに対価として与えられたこの邸宅を、「丹が自分のために用意してくれた隠れ家なのだ」とでも勘違いして、「邸宅に入ってしまえばこちらのもの」とばかりに安心しきっていたのかもしれない。

 沈はまずリフィではなく、その供の者を呼び出して問い質した。


「連中が言うには、リフィはジャヤンタ殿下について『離れがたい』『なにもお返しできていない』と言うばかり。

 それで要するに情に訴えられ絆されたのと、面倒になったのと、まあ両方だとさ」


そう述べた沈は呆れ顔を隠せない様子だった。


「とりあえず、こちらがジャヤンタ殿下の存在に気付いたことについて、リフィには知らせないように言い含め。

 リフィを泳がせつつ監視することにした」


リフィがなにを考えてジャヤンタを傍に置いたのかわからないし、不本意とはいえ一旦受け入れたジャヤンタを放り出すのも、これまた問題になってしまう。


「我が感じたのは、リフィはなにかの思惑があって、ジャヤンタ殿下を助けたわけではないということだ」


どうやら供の者に語ったことは、本心であるようだった。

 しかし他国の王太子とは、無計画に助けて良い相手ではない。

 それはあの隠し部屋で立勇リーヨンが言っていた通り、「我が国で死なれるのは拙い」という言葉に尽きる。

 皇子である沈は人道的な観点はともかくとして、まずは国同士の問題に発展することを懸念する必要があるのだ。


「アレはそれがわかっておらぬ。

 それに万が一、リフィがジャヤンタ殿下の子を産めば、丹はさらに混迷するぞ。

 宜が丹を乗っ取るには、良い理由であるからな」


そう告げる沈が険しい顔をしてみせた。

 両国の王族の血が流れる子どもとなれば、王位を継ぐにあたってはうってつけの身分であることは間違いない。

 兄弟王子の存在など見劣りしてしまい、商人連合の後押しを受けて「幼王誕生」となってもおかしくはないのだ。

 というより、これこそが宜の商人たちの真の目的でもあった。

 兄弟王子をさんざん争わせて金をせしめた後で、リフィに産ませたジャヤンタの子を丹の王にするつもりであったのだ。

 そうなれば丹を乗っ取るなど容易いことで、リフィはもう用済みの存在となるであろう。

 そして自分たちに害があるかもしれない存在を、商人たちが放っておくはずもない。

 リフィに待ち受けるのは、ジャヤンタがされたことと同様の仕打ちであろう。

 だというのに、リフィはそのような自国の問題に発展する心配をさっぱりしていない。


「丹では、女の王族にはあまりそうした教育を施さないのか、もしくは当時それどころではなかったのか……」


沈が困ったように眉をひそめるが、どちらにしろ、無知が事態を悪くしていることには違いない。

 もしくはリフィがよほど人心掌握に長けた人物で、沈をやり込めている場合もあるが。


「まあ、それはないな。

 我も大変な時期にあの後宮にいたのだ、二心あれば察する力はあるつもりだ」


沈はそうきっぱりとそう言い切る。


「一方で、そんな状況を最も良くわかっていたのが、ジャヤンタ殿下だ。

 あのお人は婚約者でありながら、そうした理由から、そもそもリフィと添い遂げる気などさらさらなかった」


そこまで話すと、沈は物言いたげな目を雨妹ユイメイに向けてくる。


「ジャヤンタ殿下の処遇に、言いたいことがあるのだろう?

 だがあれはリフィの我儘もあるが、ジャヤンタ殿下当人の望みでもある」


どうやらあの隠し部屋での雨妹たちの会話も、すっかり知られているようだ。


「ご本人の、というと?」


雨妹の問いかけに、沈は微かに目を伏せてみせた。


「このまま丹の害悪になるくらいならば己は死ぬべきなのだと、我にそう申された」

「「えっ!?」」


これには雨妹と友仁ユレンが同時に驚く。

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