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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十二章 国主の一族たち

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448話 胃もたれしそうな話し合い

こうしてお茶で喉を潤したところで、食事に手をつける。

 美味しい粥に雨妹ユイメイがほっこりしていると、「ところで」とシェンが話をし始めた。


 ――えぇ、もう話を始めるの?


 話がしたいから、このような場を設けたのはわかるのだが、もう少し食事を味わってからでもいいではないか、と雨妹は恨めしく思う。

 沈の方が、案外気が急いているのかもしれない。

 そんな雨妹の内心はともかくとして、沈が語る。


「最初から語った方が、わかりやすいかな。

 昔話となるが、かつて私は皇帝陛下と約定を交わした。

 これまでもこれからも子を作らぬと、そう約束したことで、今の身分にあるのだ」


雨妹たちが想定で語っていたことを、沈が明確に肯定してきた。

 皇太后に配慮してではなく、明確に契約事項となっていたのだ。


「正直、我は今の身分に拘ったことはないが、当時それが母を生かすに最善の道であったのだ」


 ――なるほど、母親のために皇族に留まったのか。


 沈も皇族になるかどうかの瀬戸際であったが、その母も皇族を産んだ親となるか、反逆者に通じた者となるかの瀬戸際だったのだろう。

 同じく話を聞いている友仁ユレンがどこまで理解できているのかわからないが、このように難しい話を聞きながらの食事なので、友仁はどうしても上手く食べられず、うっかり零したものを立勇リーヨンに整えてもらっていた。

 そんな雨妹たちの様子を見ながら、沈は話しを続ける。


「皇帝位の争いにまた巻き込まれるのは、御免被りたい。

 今も昔もこの気持ちは変わらぬし、あれほどに面倒なものはないと思っているとも。

 であるからして、我は宮城や皇太后が追ってこない場所へ逃げたかった」


そこで沈が目をつけたのが、ここ揚州なのだという。

 当時、ホァン家の治める徐州は未だ崔国ではなく、苑州も荒れており、この揚州が唯一外の国と自由に行き来できる場所だった。

 経済で優位に立てるその地を支配していたチー家は、当然他の州公よりも立場が上となる。


「我は『あの身分が欲しい』と強く思ってな。

 斉家の統治に問題ありという意見が出たところへ、強引に付け込んだ」


沈がそんな動機で揚州入りをしたとは驚きである。

 押しつけられたのではなく、自ら立候補しての人事であったのだ。


 ――それってつまり、人の物を横取りしたってことだよね?


 それはなんとも強欲で、斉家が怒るはずだ。

 斉家と揉めているのは宮城との権力争いではなく、沈への恨み故なのだ。

 この沈の在り様は、周囲から押し上げられたあの父とは、また違うものであろう。

 胡安から聞かされた沈の事情は、後に語られるようになった美談であったということか。

 一方で、その斉家側の事情というのも、なかなかに大問題だった。


「斉家――いや、正確には、斉家がどっぷりと取り込まれていた隣国の宜が、であるな。

 連中は戦乱が終わりを迎えることを、良しとしてはいなかった」


そう話してから沈は、雨妹が空けた胡麻団子の皿を下げていた立勇にちらりと目をやる。


「宜がどういう国かは、そっちの立勇が知っているのではないか?」


そう告げる沈に視線を向けられた立勇は、皿を片付けてから口を開く。


「宜国は表向きでは王を戴いてはいるものの、実際には商人連合と呼ばれる商人たちの中から選ばれた長老たちが、国の政治を取り仕切っている国ですね」


すらすらと答えてみせたあたりは、さすが立勇である。


「その通り、さすが明賢メイシェンが頼りにする側近だ」


沈はそう立勇を褒めてから、その宜の大問題に切り込む。


「そしてその宜の商人は、武器売買で儲けている連中なのだ」


 ――武器商人の国かぁ。


 それは、なかなかに物騒なお隣さんであるものだ。

 それに戦争特需で儲ける国というのは、前世でもたまにあった話である。

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― 新着の感想 ―
[一言] >それに戦争特需で儲ける国というのは、前世でもたまにあった話である。 というか、かつての日本もそうだったのだが……(朝鮮戦争特需があったから戦後のアレコレを乗り越えられた)
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