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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十一章 南への旅立ち

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442話 問題の「お宝」

対照的な反応を見せた二人に、リュは「ふふふ」と楽しそうに笑みを零し、顔を寄せてひそりと囁く。


「邸宅の奥の半地下の部屋に、貴人らしき男が寝かされていたのさ」

「ほう」


呂の語りに、雨妹ユイメイは前のめりになる。

 半地下とは、いかにも隠し部屋っぽい場所だ。

 そしてなるほど、「お宝」とは物ではなく人だったのか。


「その貴人はどっかの戦にでもいたのか、身体中に剣で付けられた傷痕があり、片腕がない」

「軍の指揮官か?」


立勇リーヨンはそのように考察したが。


「そして、赤い目の男だ」

「なに!?」


続いて告げられた情報に、彼は驚きで目を見開く。


「お主、なんというものを見つけたのだ……!」


慌てたように立勇が小声で呂を叱責しているのに、雨妹は首を捻る。


「その赤い目とは、なにか問題があるのですか?」


雨妹が二人の様子を窺いながら尋ねると、立勇は厳しい顔で答えた。


「隣国、宜国の王族に現れる特徴が、赤い目だ」

「え!?」


これには雨妹もギョッとする。


 ――お隣の国の王族!?


 それは確かに、驚くべき「お宝」だ。


「それって、すごく拙いですか?」


雨妹が問うのに、立勇は深く頷く。


「拙いどころか、事情によっては宜から『王族を拉致された』と訴えられることもあり得るぞ」

「あぁ~」


立勇の指摘に、雨妹もその状況を想像して頭を抱える。


 ――なんてものを見つけたの、呂さぁん!


 できるならば、知らないままにこの地を去りたかった。

 雨妹が恨めしい視線を向けるのに、けれど呂は満面の笑顔である。


「まあまあ、そう興奮しなさんなって」


この話を持ってきた呂が宥めてくるのに、立勇が「お前が言うな」と睨みつける。


「それでだなぁ。

 実は、俺ぁあまり宜の王族にそう詳しくないんで。

 立勇様、顔を見ればわかりませんかね?」


なるほど、呂はこの狙いがあってこの話をしてきたのか。


「……殿下の護衛の際に、宜国の王族と重臣の顔を見たことはある」

「そいつは助かる!」


立勇が渋々答えるのに、呂は嬉しそうに手を叩いた。



というわけで、その日の夜のこと。

 雨妹と立勇は、呂に先導されて赤い目の男を見に行くことになった。


「そこの足元、気を付けるんで」

「はぁい」

「狭いが、人が通るには十分か」


呂に注意される雨妹の後ろで、立勇が通路を観察している。

 そして雨妹の手には、念のためにと救急箱があった。

 寝かされているという怪我人の状態によっては、必要になるかと思ったのだ。

 こうして三人でもそもそと隠し通路を歩いた先に、やがて厳重な扉が見えてきた。


「ここなんで」


その扉を指さした呂が、体当たりをするようにして押し開ける。

 その扉の奥にあるのは、牀が一つあるだけの簡素な部屋だった。

 一応明り取り用らしき隙間が天井にあるが、ちょうど陰になっているのか、月明かりも差し込んでこない。

 そして牀の上には、リフィや料理長と同じように浅黒い肌の男が寝かされている。

 にしても、病気になりそうな部屋だ。


「こんなところに怪我人を押し込めるなんて……」


雨妹は眉をひそめながら、牀へと近付く。


「もっと明るくしてくれますか」

「はいよ」


雨妹が頼むと、呂が手に持つ灯りを牀の近くへと寄せてくれた。


「……!」


そして灯りに照らされた人物の顔を見て、立勇が息を呑む。


「まさか……」


立勇のかすれ声が、なんとも不穏に響く。


 ――いやいや、まずは私ができることをしよう。


 状況に流されてはいけない。

 ここはあくまで秘密の部屋のようであるし、あまり長居は良くないだろう。

 作業は素早く終わらせるに限る。

 気持ちを入れ替えた雨妹は、寝かされた男を調べ始めた。

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