441話 一方、こちらでは
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友仁の部屋にてこのような話し合いが為されている、その扉の外では。
「……」
扉を守っている明の目の前で、沈が扉に耳をつけて、中の様子を窺っていた。
護衛の前で堂々と盗み聞きする沈も沈だが、それを見逃す明も明である。
「友仁は、なかなかの知恵者を味方につけているな」
「盗み聞きとは、皇子殿下ともあろうお方がはしたないことで」
満足そうにそう漏らす沈に、明が呆れ果てている。
「それにしても、お人好しは変わらずか。
面倒を背負い込んだものだ」
「ふふ、見捨てられなかったものでな。
だがいい加減に鬱陶しくなったので、その面倒を全て片付けたいのよ」
そう言って口の端を上げてみせる沈は、友仁に対して見せる朗らかさが鳴りを潜め、怪しくも見えた。
「お前さんも、性格が悪くなっちまってまぁ」
明のぼやきに、沈は何故か嬉しそうな顔になった。
「ふふ、成長したといってくれ。
そういう明は、ずいぶんと渋いおやじになったぞ? 愚痴っぽいのは変わらないようだけれど」
「余計なお世話だ」
沈のいらぬ台詞に、明は嫌そうに顔をしかめる。
その後もしばし扉に耳をそばだてていた沈だったが、やがて満足したのか姿勢を正す。
「リフィもそろそろ我に守られるのではなく、独り立ちを考える頃合いだ。
かの青い髪の娘が、よい手本になるだろう」
一人満足そうにしている沈だが、明はこれに異論を唱えたい。
「……ありゃあ手本なんていう優しいモンじゃあない。
劇薬だぞ?」
そして取り扱いを注意しないと、もれなく怖い保護者がしゃしゃり出てくるのだ。
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友仁の部屋で話し合いが為された後、雨妹はいつも通りに立勇に伴われて自室に戻っていた。
「私、なんだかもう色々お腹いっぱいで、百花宮に帰りたくなってきました」
雨妹が泣き言を零すのに、立勇は眉をあげる。
「お前にしては、珍しく弱気なことだ。
だが百花宮は未だ改装中なので、今帰っても居所に困るぞ」
「まあ、知り合いも大勢余所に避難しているみたいだから、おしゃべり相手もいないかぁ」
立勇にそう指摘され、雨妹も改めて考えて「はぁ~」と特大のため息を吐く。
「私、野次馬は好きだけれど、陰謀系は好みじゃないんです」
「陰謀好きだとは、相当な捻くれ者だろうな」
げんなりした顔で文句を言う雨妹に、立勇が苦笑している。
そんなやり取りをしながら部屋の近くまでやって来ると、部屋の手前に呂が壁に寄りかかるようにして立っているではないか。
「小妹!」
笑顔でヒラヒラと手を振る呂は、どうやら雨妹のことを待っていた様子である。
「見計らったような頃合いで現れる男だ」
立勇がそう言って怪しむ目つきになるが、呂はそんなことは全く気にせず、大股で近付いてきた。
「いやぁ、苦労したこって。
この建物はだいぶ古い上に、どこかの国の偉いさんでも住んでいたみたいで。
隠し通路がわんさかあるの、あるの」
そして朗らかに語る内容が、なかなかに際どい。
この邸宅へ来て以来呂の顔を見ないと思っていたら、邸宅の攻略をしていたようだ。
「で、なんと『お宝』を見つけたんで」
ニヤリとした顔をする呂に、雨妹は立勇と顔を見合わせる。
「お宝、ですか?」
「なんだそれは?」
雨妹は若干の期待を視線に含ませ、立勇は怪しげな詐欺師を見るかのような視線で、呂を見た。




