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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十一章 南への旅立ち

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435話 意味ありげな態度

一方で、友仁ユレンは幡に来てから食欲が旺盛で、「母上の宮よりも、食事が美味しい」と漏らしていたくらいだ。


 ――こちらの食事が友仁殿下の口に合った、というのもあるんだろうけれど……。


 だがこれはどちらかというと、ボルカの工夫の賜物であると思われた。

 というのも立勇リーヨンが言うには、この邸宅で友仁の食事が後宮で皇族に出される食事より、非常に早く届けられているらしいのだ。

 友仁の下へ届けられた食事は出来上がって比較的あまり時間が経っていない状態なため、宮城での毒見済みの冷めた料理に口が慣らされている友仁には、出来立てに近いというだけでより美味しいに違いない。

 けれどこの速さは、「毒見をしていないから」ということはないだろう。

 シェンは持て成しの料理に口をつけないことで有名なのだという話だ。

 そんな沈が毒見に無頓着そうに振舞う時は、食事を提供したのは自らが連れている料理人である時であった。

 その沈が、毒見を軽んじているはずはなく、毒見が省略されている手抜き状態であるとは思えない。

 ただ、毒見をする前後の手順を工夫してあるのだろう。

 考えられるのは、料理を運ぶ手順やら道順やらに、コツがあるということか。

 これはボルカの指示によるもので、雨妹ユイメイたちにその方法を明かされたりはしない。

 おそらくは秘密の専用通路を使っているのだろう。


 ――ボルカさんも料理人なら、せっかく作った料理を劣化した状態で届けたくないだろうしね。


 けれどそれと同じことを宮城で行うのは、無理かもしれないとも雨妹は思う。

 宮城では儀礼的な手順が重んじられるところがあり、時間をかけるのが丁寧な行動だと見なされるのだ。

 この邸宅とて、丹国から遠く離れているからこそできること、という可能性もあるだろう。

 まあ、そうした事情はおいておくとして。

 色々と慎重に試した結果、友仁には乳製品はどれも使えるということがわかった。

 なのでボルカが得意とする丹国料理を食べるのに、なんら問題ないという結論に至る。

 逆に友仁が症状を出す卵を使えないことは、料理をする上であまり問題にならないそうだ。

 卵よりも、乳製品が使えない方が困るとのことである。

 乳製品で色々試したように、卵もひょっとして過敏症にならない種類の鳥の卵があるかもしれない。

 けれど卵での症状が重めである上、本人も卵を食べられないことを惜しんでいる風でもないので、「そこまですることもないだろう」というボルカの言葉であった。


「美味しく食べられるモンを、美味しく食えばいいんだよ」


という至言を貰い、雨妹も深く頷いたものだ。


 ――理解がある人が偉い立場にいるって、こんなにも生活が楽になるんだなぁ。


 当初雨妹も正直、この揚州行きが友仁にとって吉と出るか凶と出るか、不安な面もあったのだが、今は「友仁殿下はここへ来てよかったのだ」という安堵が強い。


「今回は突如決まった訪問にもかかわらず、友仁殿下のお食事に気を配り、心を砕いていただき感謝します」


感謝を言いたくなった雨妹がそう述べると、ボルカは「ふん」と鼻を鳴らす。


「礼を言われることじゃあねぇ、これが俺の仕事だ……それに、いいことだってある」


しかめ面になって、そっぽを向く。


「このまま、あの坊ちゃんを引き込めれば……あの方のお気持ちが、これで叶うといいのだが」


しかしそんな最後のボルカの微かな呟きを、雨妹は聞き逃さなかった。



「……っていうことがあったんですけれど、なんだと思いますか?」


台所を退出した雨妹は、立勇にボルカとのやり取りを話して聞かせる。


「またお前は要らぬことを気にする奴め。

 漠然とした内容すぎて、さっぱりわからん」


立勇の呆れつつもそっけない答えに、雨妹は「ぶぅ!」とぶーたれる。


「たしかにそうなんですけれど!」


そこをアレコレと妄想するのが、楽しいのではないか。

 雨妹がこんな風にやいのやいのと言いがら部屋へ戻っていると、前方に柱の陰に身を隠す人影が見えた。


 ――あれ、友仁殿下だ。

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