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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十一章 南への旅立ち

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433話 もう一つの目的

雨妹ユイメイは温泉から上がった友仁ユレンの身体を拭い、背中の傷痕に薬を塗っていく。

 あの事件から一年になるので状態はかなり回復しており、この薬は痛み止めというより、保湿などの肌の調子を整えるためのものだ。


「友仁殿下、背中の痕がずいぶんきれいになってきましたね」


雨妹は丁寧に薬を塗り広げながら、友仁に話しかける。


「そうなの?

 如敏ルーミンが毎日、チェン先生のお薬を塗ってくれるんだ」


友仁が肩越しに雨妹を振り向き、教えてくれた。


 ――如敏、泣きながら薬を塗っていそうだな。


 雨妹は如敏の顔を思い浮かべ、そのように想像する。

 友仁の背中の比較的浅い傷痕は、ほとんど気付かないくらいに消えている。

 だが文君ウェンジュンが執拗に鞭打ったせいで、ところどころ傷が深くなっていた個所があり、恐らくそのあたりは完全に傷痕が消えることはないだろう。

 けれども肌の手入れ次第で、目立たなくさせることはできる。


「いずれ、ほとんど目立たなくなるでしょう」

「そっかぁ」


雨妹が告げたことに、友仁はからっとした様子で頷く。

 それが強がりなのか、はたまた既に過去の事となっているのか、そのあたりを察することはできない。

 それにしても、友仁がこの揚州に来たのは、この温泉があっただけでも、十分にお得な旅となっただろう。


 ――もしかして揚州行きって、この温泉目当てだったりしたのかなぁ?


 雨妹はふと、シェンの提案に乗った父の思惑を、そのように想像する。

 父は戦乱期には各地へ赴き、争いを治めていたという話だ。

 ならばこちら方面にもやって来て、その際にこの温泉について知ったとしても不思議はない。

 こんな贅沢なものではなくとも、どこぞの山に温泉が湧いていたかもしれない。

 案外子煩悩な父を思い、雨妹はひっそりと笑みを零すのだった。


こうして友仁が温泉を満喫した後。

 友仁は雨妹と話した通りに胡安フー・アンを通じて沈に話をして、この日の大浴場を友仁一行に開放してもらえることとなった。

 男女に分かれて使ったのだが、誰もが温泉というものに驚き、贅沢な広さの浴槽にはしゃいでいた。


 ――そうでしょう、温泉っていいものでしょう!


 もちろん雨妹も温泉を満喫させてもらったのだが、みんなの反応を見て大変満足である。



癒しの時間を過ごした後、友仁は引き続き沈のお仕事見学をして過ごす。

 その間に友仁に付き添うのは胡安の役目であり、雨妹はその間暇になる……というわけでもなく。

 この邸宅で雨妹が頻繁に出入りする場所は、台所であった。


 ――佳でも台所に入り浸っていた気がするけれど、お屋敷の料理長、元気かなぁ?


 雨妹は佳の利民リミンの屋敷での出来事を思い出しつつ台所へと向かい、その背後にはお約束の立勇の姿がある。


「どうも、雨妹です」


雨妹が名乗りながら台所の中を覗くと、数人いた料理人たちが一斉にこちらを振り向く。


「おう、どうだ?」


その料理人たちの中央にいた、浅黒い肌の初老の男が声をあげた。

 彼はこの台所を仕切っている料理長のボルカという男で、リフィと同じ丹国人だという。

 この邸宅が丹国所有である頃から、この台所にいる人なのだそうだ。


 ――つまり、影の邸宅の主ってわけだよ。


 そのボルカに、友仁の食事の様子について報告するというのが、雨妹の仕事の一つなのだ。

 というのも、友仁が食物過敏症であることを、非常に気にしていたのだ。

 というよりも、ボルカはこの症状に崔国人よりも理解があった。

 丹国は乳製品が崔国よりもよく飲まれるお国柄らしく、乳製品も卵と同じく過敏症になる割合が高いものである。

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