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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十一章 南への旅立ち

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430話 邸宅散策へ出発

「邸宅内で人をぞろぞろと引きつれることもあるまい」


友仁ユレンの警護責任者である明がそのように言ったために、友仁は雨妹ユイメイと、雨妹にもれなく付いてくる立勇リーヨンを伴って、シェン邸の探検へと出発した。

 胡安フー・アンは友仁に関する予定を管理するために、留守番である。

 そして、リフィが邸宅内の案内をしてくれることになった。

 やはりさすがに、勝手にあちらこちらへ動き回るのは駄目のようだ。


 ――お土地柄、外交機密とかありそうだもんね。


 好きに覗いて回ることも楽しいが、案内人付きも観光気分でいいものだ、と雨妹は思ったりする。


「ふふ、ここには都にはないものがたくさんありますよ」


リフィがそう話しながら、にこやかな様子で先導していく。

 邸宅は異国の外観をしていたが、内部も異国のものであった。

 石造りなのだが、崔国の堅牢な城塞に見られるようなものとは違う。

 石の模様を活かした、優美さを感じさせる建物だった。


 ――なんかこういう風な建物、南アジアの観光地にいくつかあったよね。


 雨妹は前世の観光ガイドに載っていた写真を思い浮かべる。

 前世での旅行はもっぱら華流ドラマの聖地巡礼に費やしていたので、それ以外の観光地には行った事がなかった。

 なので雨妹の今の気分は、観光ガイドについて行く観光客である。

 雨妹だけではなく、都の建物に慣れ親しんでいる友仁もまた物珍しそうな表情で、「ほわぁ」と声が漏れている。


「どこも石の部屋で、ちょっとひんやりする」


ここ揚州は都より温暖な気候らしいが、それでも今の季節は石の冷たさが際立って感じられるのだろう。


「そのひんやりが、暑い季節には心地よいのです」


リフィが友仁にそう説明した。


 ――この辺りは寒い時期より暑い時期の方が長いのかな?


 そうであるなら、暑さを凌ぐための建築の知恵というわけだ。


「ここは、沈殿下のために建てたものではないのだろう?」


一方で立勇が石柱の一つを撫でながら、その劣化具合からの推測を口にした。

 これに「おわかりですか」とリフィが頷く。


「この建物は元々、丹国が拠点とするために建てたものの一つでして。

 それを沈殿下に譲ったものなのです」

「ははぁ、だから特に異国式に建ててあるんですねぇ」


拠点ということは、前世風に言えば大使館のつもりで建てたものだったということだ。

 ならばなおさら、国の宣伝にもなるので立派に建てられたのだろう。


 ――リフィさんも丹国の人だし、沈殿下は丹国と親しくしているのかな?


 しかも隣国ではなく、そこを飛び越えてそのまた隣である丹国と仲良くするとなると、間に挟まれた隣国はどうなのだろうか?

 互いに交流するには隣国を通る必要があるだろうに。

 雨妹は国際問題の気配を微かに感じるが、これをすぐにブルブルと頭を振って打ち消す。

 そういうことは、心配したら現実になってしまうというお約束があるのだ。

 そういう心配は、そういう専門の人がすればいいのであって、雨妹はちょっと運よく揚州観光に来た宮女でしかない。


 ――余計なことは考えないぞ!


 このように一人で忙しない雨妹を、立勇がじっと見てくる。


「余計なことをしようとするなよ?」

「しません!」


まるで雨妹の頭の中を覗いたような立勇の言葉に、雨妹は即座に返す。

 あちらも、雨妹と似たようなことを考えたのかもしれない。

 そんな雨妹のことはともかくとして。


「なので、この建物には丹国の文化が所々にあるのです。

 こちらもその一つ」


そう語りながらリフィが連れて行った先は、沐浴場であった。

 沐浴であれば、昨日にも友仁が使ったのだが、リフィ曰くそことは別に「特別な沐浴場」というものがあるのだという。


「準備が大変なので、昨日に間に合わなかったのですけれど」


そう言ってリフィが見せた光景は、素晴らしいものだった。

その隣で、雨妹はブルブルと身を震わせるしかできない。

 その沐浴場の浴槽は石作りで、装飾の美しいタイルがあちらこちらに嵌め込まれていた。

 しかし特筆すべきは、浴槽に溜められている湯であろう。

 この、お湯から微かに香るのは――


「温泉だぁ~!」


雨妹は思わず叫ぶ。

 そう、ここの沐浴場は温泉なのだ。

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