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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十一章 南への旅立ち

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428話 お妃希望らしい

胡安フー・アンが娘に対して、まるで幼子に教えを説くように告げる。


「あまり人前で己の無知を晒すものではない。

 当然、証明が為されているに決まっているだろう」


「でも、あの男は……!?」

「後宮から預かっている身になにか間違いが起きぬよう、ああして見張りがいるのではないか。

 まったく、頭の悪さがこちらにまで移りそうだ」


なおも食い下がる相手に胡安が頭痛を堪えつつ述べると、最後に心底嫌そうにしかめ面になる。

 雨妹ユイメイ立勇リーヨンがついているのは、正しく「お目付け役」なのだが、胡安が話す理由もあながち間違いではない。

 雨妹が処女でなくなってしまうならば、それはもう後宮に戻れないということだ。

 それが皇帝のために存在する場所の絶対的な決まりである。

 雨妹が後宮に戻りたいのであれば、それは必ず避けなければならない事態であろう。

 逆に言えば、だからこそ女官であれ宮女であれ、後宮の外へ出される者はそのあたりを「信頼されている」という証でもあるのだ。

 そして後宮で友仁ユレン付き宮女である如敏ルーミンが同行できなかったのは、そこまで信頼が足りなかったのだろう。


 ――要するに、外ですごく好みの相手と恋に落ちても、それを振り切って諦められるかどうかだよね。


 その点雨妹は、色気よりも食い気に走るので、安全だと思われているのかもしれないが。

 そんな後宮事情はともかくとして。

 気になるのは、この娘がずいぶんと必死な様子であることだ。


「あの人、妃嬪になりたい類の人ですかね?」


雨妹は立勇にひそっと尋ねる。


「まあ、そうだろうな。

 友仁殿下を足掛かりにして、後宮入りしたいのではないか?」


胡安と同じく呆れ顔で様子を見ていた立勇が、雨妹にそう返しながら顎を撫でる。

 というよりも、このような誰が通るともわからない場所で喚くような話題ではないことを、あの娘はわかっているのだろうか?

 ここであまり激しく反発した態度を見せていると、その話題は都合が悪いということになり、周囲からは「既に処女ではない娘」だと思われるだろうに。


 ――「処女」っていう単語が恥ずかしいなら、もっとそれっぽい恥じらいを見せればいいのに。


 ちなみに後宮入りした娘の場合、入って最初の処女検査を通ることで、そうした恥じらいがある程度崩れるという現象が起きるようだ。

 特に出世すればする程に、妃嬪と皇帝もしくは太子との閨事に関わることになる。

 それなのに性のアレコレでいちいち恥じらっていたら、仕事にならないのだろう。

 それは立勇も「立彬」として、後宮の様々な女たちを見慣れているため事情は同様らしく、今の彼女の発言にさほど怒っている様子ではなかった。

 これが他の近衛であったならば、当然大揉めした案件に違いない。

 ところで、雨妹は娘の発言で一つ気になることがあった。


「今の話のエン家って、恩淑妃のところですかね?」


雨妹が問うのに、立勇も眉を寄せて応じる。


「ああも自慢げに言うのだから、恐らくはそうだろうな」


娘はああも懸命に自分を売り込んでいるが、胡安は別に友仁の周辺から人を排除しているわけではない。

 一行の人員から新たに、友仁の近くで働く者たちを選んでいる。

 仕事内容は友仁と直に顔を合わせる機会はないけれど、限りなく近しい仕事を行うというものだ。

 そこから為人を見つつ徐々に距離を試す、ということらしい。

 それで言えばこの娘がそれに選ばれないということは、なにか問題があると胡安が考えたということでもある。


 ――まあ、たぶんああいうところだよね。


 あの娘は状況が自分に不利となると、即座に自分より下に見なしていた雨妹に目を付けて責めてきた。

 自分を良く見せるために誰か他者を下げたがる、というのは駄目な点だろう。

 それがいつか、自分の主を下げて喋ることにつながる可能性があるのだから。

 それに雨妹を思い込み以外のなんの根拠もなく「自分よりも下」と決めつけるのも、落第点の一つなのだろう。

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― 新着の感想 ―
[一言] ここまで見苦しいと逆に遠ざけられると気付かないあたり、世間知らずなのか、自分を過大評価しているのか、考えが浅はかな間抜けなのか…。
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