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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十一章 南への旅立ち

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427話 こちらもこちらで

友仁ユレン一行がファンに到着して、翌日。

 着いて早々に騒動があったけれど、その後不穏なことは起きていない。

 あの嫁候補たちの手先がこの邸宅内にもいるのだろうが、立勇リーヨンミンに脅かされたことが効いているのか、雨妹たちの周囲にそうした存在が現れる様子はなかった。

 その代わりといってはなんだが、宮城から付けられた友仁一行内での派閥争いが激化していたりする。

 より友仁に近しい立場になろうと、仕事の取り合いになっているのをよく見かけた。

 そうした問題を捌くための存在が、胡安フー・アンである。

 今も雨妹ユイメイが立勇に伴われて友仁の様子窺いに向かっていると、なにかの用事からの帰りなのであろう胡安を、とある娘が呼び止めているところに出くわした。


「友仁皇子のお役に立ちたいのです!」


そう直訴する娘の手には小ぶりな箱があり、それを胡安に向かってぐいぐいと押し出している。


 ――あの箱って、賄賂のためのなにがしかかな。


 雨妹は遠目にそう判断する。

 賄賂と決めつけるのはよくないかもしれないが、これまでやって来た者たちと胡安のやりとりから考えるに、恐らくは合っていると思われた。

 そう、直訴はこの娘だけではなく、大勢がああした賄賂を持ってやって来るのだ。


「胡安さんも忙しいですね」

「ああいう輩対策のための人員でもあるからな」


雨妹が野次馬しつつも胡安に同情するのに、立勇がそう言ってくる。

 元は文官である胡安なので、議論において口が回ることは確かだ。


「その手にあるものが私にどういう利点があるというのか? 金銭以外にだ」


そんな会話をしている雨妹たちの一方で、胡安がその娘の手にあるものを冷たい目で見下ろしている。

 だがこれに、彼女は気丈に言い返す。


「わっ、わたくしは恩家と縁のある大店の娘ですのよ!?

 あの地味女などよりも、色々とお役に立てるはず!」


そしてなんと、雨妹の方を指差したではないか。

 いつからか、雨妹の存在に気付いていたようだ。

 単なる通りすがりなのに口論がこちらへ飛び火してきて、雨妹は思わず「うへぇ」とうめき声を漏らす。


「頭の悪い娘だ」


胡安の視線が、さらに冷たさを増す。


「あちらの者は後宮で適正に教育を受けており、なおかつ医官よりその能力を推薦され、今ここにいる。

 お前にそれ以上の能力があると言うのか?

 それはどのようなことで?」


胡安は娘にそう問いかける。

 後宮での教育というが、雨妹は正確には皇族に近しく接するための教育は足りていないのだが、下っ端宮女が皇族を絶対的に敬うという精神を叩き込まれるのは確かだ。

 正論を言われ沈黙する娘に、胡安がさらに問いかける。


「なにより、お前は己が処女であると、この場で証明できるのか?」

「なっ……!?」


これに、娘が顔どころか全身を真っ赤にした。


「なんということを仰るのですか!?」


娘は今の発言を胡安の意地悪やからかいでのものだと考えたのか、責めるように睨む。

 だが胡安はそれに涼しい顔で応じる。


「なんということ、と言われても。

 皇子に近しい立場になるならば、女は処女であるように求められることは決まりである」


胡安が恥じ入ることもしないのは、本当のことだからだろう。

 友仁が既に宮城の外に出て独立して暮らしているならばともかくとして、今は皇帝の庇護下の後宮で暮らしている身だ。

 側仕えになりたいのならば、当然後宮での採用のしきたりに従ってもらわなければならない。

 この場限りの採用で済ませるのであれば、そもそも沈から人手を借りればいい話なのだから。


 ――女の人はだいたいアレで、撃退できるんだよねぇ。


 この娘もこれで引き下がるかと思ったのだが、この娘はまだ食い下がった。


「それは、それでは! あの女はどうなのです!?

 いつもあの男と一緒にいるじゃない!」


なんと、近衛の立勇にまで飛び火させるとは、あの娘は命が惜しくないと見える。

 胡安も呆れているようだ。

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