423話 やっと本題
雨妹は立勇の意見を聞いて、改めてリフィの方を見た。
そう言われてみれば、動きの端々が上品に思えてくる。
同じく友仁も気になったらしく、リフィを目で追っているのがわかる。
――異国の高貴な身分の女性が、皇族の側仕えをしているのかぁ。
それはなんとも、想像が捗る状況ではないだろうか?
華流ドラマオタクの血が騒ぎ、雨妹の鼻息が若干荒くなる。
雨妹たちがそんな話をひそひそとしていると、沈がやっとこちらにやって来た。
「やあ、呼んだのに放置してすまなかった。
お茶を楽しんでいるか? リフィ、我にも淹れてくれ」
沈はカラリとした笑顔の気軽な調子で言うと、雨妹たちの卓の隣に、別の卓を寄せる。
「お待たせして申し訳ない。
この殿下は説教できる時にしておかないと、逃げるものでして、まことに申し訳ない」
もう一人は申し訳なさそうに俯き、ひたすらに謝る。
彼と沈との態度の違いといったらない。
「謝罪は何度もされれば、鬱陶しいものでしてよ」
そこへぴしゃりとリフィが叱る。
ここまでの様子を見ていても、普段の力関係が垣間見えようというものだ。
三人三様に、なんとも温度差が大きい主従である。
この立勇と明に説教され、今もリフィに叱られた男は名を林俊といい、元は地方官吏であった文官であるという。
つまり沈が引き抜きをかけたということなので、きっと優秀な人なのだろう。
「何故私は、地方官吏で満足しなかったのか、ああ今更ながらに悔やまれる」
それと同時に、なんだか湿っぽい性格の人のようだ。
――いや、湿っぽいくらいで案外ちょうどいいのかも。
沈があのような人であるので、お付きまでいけいけな性格であれば、暴走して止まれない未来しか見えない。
雨妹が三人それぞれに個性的な主従を観察していると、友仁が笑顔で沈に話しかけている。
「叔父上、奶茶とは美味しいですね。
好きになりました」
「ほう、気に入ったのならばよかった。
その土地の味を好めることは、土地に馴染むのに優位だからな」
今しがた飲んだ奶茶の感想を述べる友仁に、沈も笑顔で友仁に応じる。
こうしてなんとか場が整ったところで、やっと本題に入った。
「簡単に言えばだね、あの出迎えに現れた女たちは、我の嫁候補たちだ」
――そうだろうとは思ったよ。
沈の言葉は予想通りとも言えるものであり、雨妹の中に驚きはない。
それは立勇と明、胡安も同様だったらしく、一人友仁だけが「そうなのですか?」と驚いていた。
沈はその友仁の反応に救われたような顔で、話をつづける。
「そうなのだよ!
集めてもおらぬのに勝手に候補として名乗りを上げ、幡に屋敷まで構えて居座っている女たちだ。
かなりしつこくてな。
まあ狙いはここ幡の統治権だろうが」
どうやら揚州を狙っているのは、斉家だけではないようだ。
沈曰くこの地域は古来より、国境線が頻繁に変わっているのだという。
そこは苑州と同様だが、一つだけ苑州とは違う点があるという。
「このあたりの民の気性というものが、少々厄介でな」
そう言って苦笑する沈の様子を見て、雨妹がふと思い浮かべたのは佳の街で出会った徐州の民のことだ。
彼らとて、かなり皇族嫌いを拗らせていたものだ。
「気性というのは、佳の方々と似ているのでしょうか?」
雨妹が口を挟むと、沈は眉を上げた。
「お主は佳の民を知っているのだったな。
ふむ、確かに皇族嫌いというか、『皇帝なんぞおらずとも困らぬ』という態度に共通点はある。
だがあちらとは似ているかと言われれば、大いに違うな」
共通点はあるが似ていないとは、なんだかややこしい言い方である。




