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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十一章 南への旅立ち

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419話 そして、気まずい空気になる

そんなことがあった後。

 騒がしかった女たちと見物人たちを解散させてから、やっと一行が邸宅に入れるようになった頃には、かなり時間が経っていた。

 気付けば、もう日が暮れ始める頃となっている。

 早く荷物を片付けないと荷車をいつまでも移動できないため、一行は大急ぎで荷車から荷物を降ろしている。

 雨妹ユイメイも同様であり、早く荷車の自分の荷物を降ろして、友仁ユレンの体調窺いに向かわなければならない。

 そんな風に忙しくしていると、状況が整うまで待機している友仁の前に、シェンの供の一人である男が跪く姿が見えた。


「申し訳ございません。

 このようなことにならないようにと、留守役に知らせを飛ばしたはずなのですが、どこかで行き違いがあったようです」


どうやら先程の騒動を謝罪しているようだが、遠目にも顔色が悪い。

 崔の国ではめったなことでは膝をつかないのだが、男はそれを行って申し訳ない気持ちを体現しているようだ。

 だがその顔色の悪い男に、胡安フー・アンが友仁の側仕えとしてチクリと釘を刺す。


「皇族への無礼は極刑へ繋がるものです。

 その認識を、果たしてあの連中はわかっているのでしょうか?

 わかっているとするならば、命が要らぬと見える」

「それは、はい」

「揚州の性質や扱い難さはこちらも理解しているが、無礼を受け流すことは断じて許せぬ。

 揚州の民にほだされることは、結果その民を危険に晒すことに等しい」


さらにミンも苦言を呈した。


「……肝に銘じます」


その男は、ひたすら謝るしかできない。

 友仁の性格が激しめであったならばら、下手するとあの場の全員処刑だった可能性もあるのだ。

 「行き違いがありました」では済まされないだろう。

 ところでその友仁だが、先程の女たちの騒ぎの前に立たされたにしては、案外ケロッとした様子である。


 ――まあね、最近まで側に付いていた女官があの文君ウェンジュンさんだもんね。


 あの過激な女官に比べれば、口論だけで手を出してこない女たちなど、さほどの脅威と感じなかったようだ。

 結果として友仁はああした突発的な事態にも動じない「芯の強い皇子」という印象を与えられたという、なんとも意外な文君効果である。

 それにしても、あの女たちも迂闊なことだ。

 いくら前世に比べて情報のやり取りが難しい世界とはいえ、いや、情報のやり取りが難しいからこそ、あらゆる状況を想像することが必要だろうに。

 あの連中は何故、軒車の中にいるのが沈だとばかり思い込んでいたのか?

 雨妹が不思議に思っていると。


「どっかの奴が買収されたんだろうなぁ。

 で、沈殿下のお戻りの日取りが外部に漏れた」


雨妹と同じくその様子を遠目に見ていたリュが、ボソリと漏らす。


「ははぁん?」


職場の汚職としてはありがちではある事態に、思わず半目になる雨妹だが、呂が話を続ける。


「けれど、情報が半端で友仁殿下が同行することまでは伝わらず。

 情報伝達ではありがちなしくじりさぁ。

 素人が裏情報なんぞ扱うと、こうなるってな」


呂は一人得心が行ったような顔になる。


 ――情報を漏らされたけれど、結果その情報であちらは自分の首を絞めたってことか。


 情報の扱いには細心の注意が必要なのは、前世でも今世でも同じことのようだ。

 それにしても買収ということは、かなり内部にまで敵に入られているということだ。


「沈殿下って、揚州では立場が弱いんでしょうか?」


疑問を口にする雨妹に、「いんや」と呂が否定した。


「弱くはないから、こちらさんも取り込むのに必死なんだろうよ。

 元は自分たちが好き勝手に出来ていた所へ、急に皇子が我が物顔でやって来たんだ。

 まあ面白くはないわな。

 それにあの皇子じゃあなかったら話はもっと楽で、ここはとっくに異国だっただろうし」

「ふむぅ」


雨妹は荷降ろしの手を止めないようにしつつ、今の呂の話と、前に聞いた明の話を頭の中で比べる。

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