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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十一章 南への旅立ち

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418話 なんとか収まった

この立勇リーヨンの剣幕に一瞬たじろいだ女たちだが、すぐに気を取り直して文句を言い出す。


「なんと野蛮、剣を抜くなんて」

「都人がなにを仰るやら」

シェン殿下は、大袈裟を好みませぬのに」


 ――すごい人たちだなぁ。


 剣を抜いた近衛に盾突くその心の強さに、雨妹ユイメイはいっそ感心してしまう。

 ミンからこの地が宮城と揉めた歴史を聞かされていなければ、雨妹とてきっと驚いたことだろう。

 事実、他の一行の者たちは仰天している。

 これが都であれば、近衛に剣を抜かれれば、顔色を真っ白にするところだろう。

 それに比べて雨妹たち一行に対する反感は、佳を思い出させる。

 佳で滞在した屋敷でも、都人への反感が強かったものだ。

 実際周囲でこの騒ぎを見物していた野次馬たちも、口々に囃し立てて女たちを援護している。


「高慢な都の皇子め」

「他人の土地で偉そうにしやがる」

「味方を増やせば喧嘩に勝てるってか?」


なんとも居心地の悪い状況で、軒車の方に動きがあった。

 明が軒車の扉に声をかけたのだ。


「どうぞ、お姿をお見せくださいますよう、お願い申し上げます」

「……わかった」


軒車の中から子どもの声で応えがあったことに、女たちの動きがぴたりと止まる。

 その一瞬だけ静まり返った時を見計らうように、軒車の扉が開く。

 その中から、胡安フー・アンに手を取られた友仁ユレンが降りてきた。


「沈殿下ではない!?」


友仁の姿を見た女たちは顔色を変える。

 しかも青い目は明らかに皇族であり、女たちがむやみに見下して良い相手ではなく、「これは拙い」という雰囲気が彼女たちに広まる。

 女たちや見物人たちは相手を沈だと思い、やいのやいのと言っていたのだろう。

 この地の統治者という身分ある沈ならば、「統治者へ現地人が意見を上げている」という立場を押し通せるかもしれない。

 しかし出てきたのは、まだ幼いとも言える子どもだ。

 子どもを相手に騒いだとなれば、絵面は完全に彼らの弱い者いじめとなる。

 そして友仁がどれ程の権力を有しているのか、現在彼らには情報がないはずだ。

 どれだけ反感が強かろうと、皇族には強大な権力があるというのは事実なのだ。


 ――敵の素性がわからないって、怖いよね。


 女たちは軒車の中にいる人物を確認してから、喧嘩を売ればよかっただろうにと、雨妹は思ってしまう。

 この慌てだす女たちを、胡安が壮絶なしかめ面で冷たく睨みつけた。


「宮城から視察にやってきた客人に対して、やかましい鳥のように騒ぐのが幡流の持て成しか?

 それはずいぶんと下品なものよ」

「なっ……!?」


女たちは羞恥で顔を赤く染めるものの、大勢の前で無礼な振る舞いをしたのは確かに自分たちであり、言い訳もできない事態だ。


 ――けれどいつもあの程度の態度は、沈殿下相手ならば問題にされないってこと?


 成り行きを観察していた雨妹は、一人首を捻る。

 皇族相手に良く言えば馴れ馴れしい、悪く言えば態度が悪い行いであるというのに。

 それかもしくは、文句を言われても周囲が全て、自分たちの味方をしてくれるかだ。

 この幡での沈の立ち位置が定かではないので、そのあたりはなんとも言えない。

 けれどわざわざ訪ねてきた高貴な客人を無礼にあしらうのは、それとは別次元の問題であろう。

 異国と行き来する商人たちで賑わっているのがこの街であり、客人を無礼に扱うなどという噂が流れれば、商人はこの幡をしばし避けるかもしれない。

 そうなれば、幡の取り柄がほぼなくなってしまうのだ。

 それを考えられない者はいないようで、女たちは冷や汗どころの話ではない。


「まことにな。

 沈殿下ではなかったから、なんだというのか?

 沈殿下の度量に甘えることと、無礼を行うことは別だ」


立勇リーヨンが剣を突き付けたまま、声に怒りを込める。

 女たちは今になってこの剣先が恐ろしいものだと認識したのか、そろそろと数歩後ずさる。

 しかし、彼女たちに逃げを許さなかったのが、明だ。


「なにをぼさっと突っ立っている、叩頭せよ!」


明が吠えるように告げたことで、女たちはもちろん、周囲で見物を決め込んでいた者たちも一斉に首を垂れた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 古代中国概念で皇族相手に無許可で口を開くどころか文句まで言うとか「正気か?」としか言えない…w 当事者だけが死ぬならまだしも連帯責任!族滅!が当たり前な文化・時代ってこわいですよね。そんな世…
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