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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十一章 南への旅立ち

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413話 事後処理は続くよ

 ミンの話だとつまり、シェンは「有能だから揚州行きになった」というわけではない。

 明け透けに言うならば、当時沈がどうなっても都合の良い皇子だっただけだ。

 平和な世であれば皇子なんていう立場は、「部下に任せて高みの見物」という生活だろうに。

 しかも沈の現在の歳から考えるに、当時は今の雨妹ユイメイくらいの年齢か、それよりも若かったはず。

 もし己が、そのような立場に就くとしたならば……


 ――いや無理、たとえ出来てもしたくない!


 雨妹は想像してしまい、思わずブンブンと首を横に降る。

 そんな立場なんて、前世以上に仕事に忙殺される未来しか見えないではないか。

 しかしそんな逆境を跳ねのけ、結果を出してみせたのが、あの沈なわけだ。

 それにしても当時の沈には、揚州行きを断るという選択肢がなかったのだろうか? それとも、宮城の外で生きる場所が欲しかったのだろうか? それがたとえ、いばらの道であっても。

 父や明もそうだが、あの戦乱期を生き抜いた者たちは、どこかしらで苦労を背負い込む必要があったのだろう。

 楽に生きるなんてことは、できない時代だったのだ。


 ――まあでも、それで今の私が落ち込むのは変だよね!


 沈の生き方を可哀想だと思うのは、その時代を知らない己の傲慢かもしれない。

 沈も、父や明だって、あの頃のことを他人に同情してほしいわけではないだろう。

 ただ、教訓として覚えている必要はあるだろうが。

 このように、唐突に首を振ったり暗い顔になったり立ち直ったりと、忙しない雨妹だったが。


「……」


その隣で立勇リーヨンが観察していることなど、雨妹当人はまったく気付くこともない。

 こんな雨妹のことはともかくとして、明の話は続く。


「ちなみにチー家は大公の地位を追われたが、今もまだ残党がこの地で影響力を残している。

 さっきの騒ぎは、その一端だろうな」


こうした残党が下手に力を持っていると、争いが泥沼化する。

 けれどこれが現実というもので、物語のように「英雄一人の活躍で全てがまるっとすっきり解決する」なんていうことはない。

 戦乱の事後処理は未だに続いていて、沈の苦労は現在進行形ということなのだろう。


 ――けれど沈殿下の、あの去り際の顔がね。


 あれが、どうにも沈について斜に構えた見方をさせてしまう。

 あの皇子は、きっと一筋縄ではいかない性格に違いない。

 そういえば明も沈を「腹黒」と評していたのだったか。

 そのように考える雨妹の一方で。

 友仁ユレンには今の話をどこまで理解できたのかわからないが、難しい顔で俯いている。


「同じ皇子でも、私は同じことをやれる自信がない……」


不安そうに視線をさ迷わせる友仁の様子に、胡安フー・アンはなんと言うべきかと、言葉を探るようにしているのが見て取れた。

 胡安は前世の雨妹の歳からすると、まだまだ若造だ。

 こうした微妙な話題で適切な言葉が出てこないのも、責められないだろう。

 むしろ適当な話をしてお茶を濁さないのは、誠実な証拠である。


 ――う~ん。


 雨妹としても立勇との約束通り、できるだけ友仁への口出しは胡安に譲りたい。

 だがこうした不安を、この場で聞き流す形になってしまうのも良くない。

 けれど雨妹は口を開く前に一応立勇をちらりと見る。

 すると立勇と目が合ったものの、特に表情を変えなかったので、これは「良し」ということかと雨妹は判断した。

 というわけで、雨妹は屈んで友仁と目を合わせ、語る。


「友仁殿下、殿下が沈殿下と同じことを為す必要はありません。

 それに、戦乱の頃と今では、時代が違います。

 同じことを為すのを求められているのかも、考えなければならないでしょう」

「時代が違う……?」


友仁が微かに顔を上げた。

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