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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十一章 南への旅立ち

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412話 明と勉強会

 そんな雨妹ユイメイに、ミンが告げる。


「おおかた雨妹、お前さんは都から来たシェン殿下の嫁候補だとでも勘違いされたのだろうよ」

「まあ、そうだろうなとは思いましたけれど」


雨妹は眉間に皺を寄せて頷く。

 独身の皇子と同行している娘となれば、単純な連想であろう。

 雨妹には嬉しくない連想である。


「宿の態度が皇子一行に対して、少々悪いように思えます」


立勇リーヨンが先程の出来事を思い返し、怒りを含ませた声で告げると、「そりゃあなぁ」と明が告げた。


「ここ揚州は、宮城側との権力の奪い合いが激しい場所だ。

 だが隣の徐州との違いは、大公家が黄家ほど統率されていなかったことだな。

 それ故に大公家はあっさりと主導権を奪われ、若造の沈殿下の下に付く羽目になった」


つまりここの大公家にはホァン大公ほどの絶対強者がおらず、それぞれバラバラで好きに宮城と喧嘩をしていた結果、沈に勝ちを与えることになったということか。

 例えは悪いが、黄家の方は結束の強いヤクザで、こちらはチンピラの集まりといったところかもしれない。


 ――もしこれがあのユウくんなら、そんな下手なことにならないよね。


 ヤクザという言葉で思い出す知り合いを想像して、そんな風に考える。

 彼は今頃佳の港町で、海鮮三昧を楽しんでいることだろう。


「汚職が酷く、責任者が全て罰されたと、そう聞いております」


明の話に、胡安フー・アンがそう口を挟む。


「ああ、それで生まれも立場も微妙な皇子に全てかっさらわれたもんだから、金のこととはいえ勝負に負けたことを、未だに認められずにいるのが元大公家、チー家の連中だ」


この明の説明に、雨妹は友仁ユレンと目を見合わせる。


「斉家、後宮にいたかな?」

「私も、ちょっとすぐには思い当たりませんね」


宮女や女官には斉の姓はいるだろうが、上位の妃嬪にこの名がいただろうか?

 それに雨妹としても、大公家が「元」となった経緯は気になるところである。

 沈が案外手練れだったのか、それとも斉家が自滅したのか、はたまた両方なのか?

 こうした家の隆盛も、華流ドラマオタクとしては見逃せないのだ。

 そんな雨妹と友仁の様子を見て、明は思案すると。


「ここらでちょいと、昔の勉強といきましょうかね」


というわけで、ここで一旦卓を囲んでの勉強会となった。



「沈殿下は皇子としての生まれも微妙であれば、独り立ちしてからも微妙だった」


初っ端から、明がある意味問題発言をしてきた。


「あの、無礼だって罰せられませんか?」

「無礼だろうがなんだろうが、これが当時宮城での共通認識だ」


恐る恐る尋ねる雨妹に、明はそう言って「ふん」と鼻を鳴らす。


「そして揚州の方だが、当時大公一族は利権絡みの汚職が酷かった。

 なにしろ戦乱で宮城がほぼ機能していなかったからな、監視不在で商人どものやりたい放題だっただろうさ」


そこへ唐突に据えられたのが、あの沈という皇子である。

 彼が行ったことは、大公一族斉家を取り調べ、公金を盗人紛いにかすめ取る者共を蹴散らし、真っ当な商いを推奨するというものだった。

 言葉にすれば簡素だが、それを実行するのにどれほどの労力が必要なのか、雨妹には想像もできない。


「そのようなお立場では、身の危険も相当なものだったでしょうに、沈殿下は武芸に秀でておられたのですか?」


一方で気になったことを口にする胡安に、明は渋い顔で答えた。


「いいや、沈殿下は武芸がからっきしとは言わんが、まあそれなりといった腕前であられる。

 戦乱後で宮城からの派兵は当てにできず、自身で傭兵を雇ったものの、上手くいったり裏切られたりを繰り返したようだな」


 ――うわぁ……。


 沈は想像以上の苦労だったようで、雨妹は内心でうめき声を漏らしつつ、ブルリと己の身を震わせた。

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