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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十一章 南への旅立ち

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409話 巻き込まないで!

「情報があるならば、知りたい」


立勇リーヨンがこう告げると、リュはニマリと笑みを浮かべる。


「この宿場町は、未だに元大公家の発言力が強いようで。

 状況としては、その発言力を潰したい殿下と、殿下を取り込みたい元大公家っていうところか」


呂がそんな裏事情を、軽い調子でぺろっと喋る。

 シェンが大公家の出ではないという話は、先程明から聞いたばかりだ。

 ということは、その元大公家になにかしらの問題があったということなのだろう。

 先だって大公家が潰された、苑州のホー家のように。


「ははぁ、だからここに長逗留するわけですか」

「面倒事が起きやすい、ということだな」


雨妹ユイメイが訳知り顔で頷くも、立勇は眉を寄せる。


「それにしても、この宿は皇子を泊めている事実をなんと心得るか」


立勇は宿に対しても憤慨している。

 あの女の口ぶりだと、おそらくは普段は宿側も彼女を足止めなどしないで、沈の元まで通してしまうのだろう。

 沈がそれを黙認していたのかは定かではないが、立勇からすると宿の態度は処罰ものであろう。

 そして今回の宿側は、女に対していつものようにできない。

 今の沈は皇帝から預かった甥の友仁を連れているため、警護には気を遣っているはず。

 なので宿も普段のようには、女の顔を利かせて通る行いを認めるわけにはいかないのだ。

 それをすると、宿の責任者他数名の首が飛んでしまう。

 下手をすると、物理で。

 というよりあの女は、沈以外にもう一人皇子が滞在しているということを、知らないのだろうか?

 知っていれば、あのような暴挙には出ないように思うのだが。

 この国では前世のように、誰もがすぐに情報を手に入れられるわけではない。

 だからこそ、最新情報を得られるというのが、ある種の特権なのだ。

 けれどあの女は、その特権を得られる身分ではないようだった。

 だからこそ、そうした特権持ちである皇子の沈に取り入ろうとしているのだろうけれども。


 ――無知故の行いでも、罪は罪なんだけれどさ。


 雨妹がそんな風に思案していると。


「……!」


女の視線がこちらを向き、野次馬の存在に気付いたかと思えば。


「あの貧相な女はどうなの、あちらに入り込んでいるじゃないの!」

「……は?」


指差して言われた内容に、雨妹の眉間に皺が寄る。

 彼女が言う貧相な女とはもしかしなくても、雨妹のことなのだろうか?


 ――貧相っていうのは、自分でも否定できないけれどさぁ。


 だがそれを赤の他人に言われるのは、かなりイラッとするものなのだ。

 しかも雨妹の隣に近衛の立勇がいるというのに、女はそちらには全く気付いていないらしい。

 この場に宮城の命令でしか動かない近衛がいるということは、なかなかに大事なのだけれども。

 逆に宿側が近衛の姿を目にして、顔色を青くしているのが見て取れる。

 なにか文句を言ってやろうと、雨妹が口を開きかけた、その時。


「騒々しいぞ」


そう声がしたかと思ったら、雨妹たちの背後から沈が歩いてきていた。


「沈殿下! 聞いてくださいな、宿の者が無礼にも……」


沈の登場を己の味方が来たとでも考えたのか、女の表情がパアッと明るくなり、不満を言い募ろうとする。

 しかし――


「雨妹よ、何事も起きておらぬか?」


沈が話しかけたのは、雨妹にであった。

 しかも優しい微笑みというおまけ付きだ。

 この沈は、明らかに雨妹をなにかに巻き込もうとしている。


 ――えぇ~、私は離れた所で野次馬していたいんだってば!


 あからさまに迷惑そうな顔になる雨妹に、沈が笑みを深めてきた。

 だがそんな胡散臭い笑みは、いくら高貴な皇子のものとはいえ、有難迷惑である。

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― 新着の感想 ―
[一言] あ~、これは背景を知ってるなこの殿下
[良い点] いつも上手いこといく野次馬ばかりではないということですね。 自分から来ておいて巻き込まれたら嫌な顔するの笑っちゃっいました。
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