405話 旅のおやつに凝ってみる
あの夕食以来、友仁は沈と打ち解けることができたらしい。
道中の軒車での乗り物酔いも減った。
――乗り物酔いも、気持ちで重さが違ってくるものね。
乗り物酔いの薬に頼らずとも過ごせているのはいいことだと、雨妹は安堵する。
一方でこちら雨妹も、呂との荷馬車旅に慣れたというより、馴染み過ぎていた。
「わぁ、芋ですか!」
「ええ、市場で売っていたんで。
甘薯ほどじゃあないが、ほんのり甘いってんで」
呂は滞在した宿場町の朝市を散策したらしく、そこで買ったものを移動中の荷車の上で雨妹に見せてくれた。
「早速、焼いてみましょうや」
「いいですね!」
というわけで、ここで取り出したのは焼いた石を敷き詰めた壺である。
これは道中に焼き鳥や焼き饅頭を作るにあたって、火の始末が手間取ることを問題視した雨妹たちが、たどり着いた調理道具だ。
この国でも壺を使った調理というと、壺を丸ごと火で熱したり、壺の中に炭を入れて熱したりという調理法はあった。
だが壺に焼き石を入れるというのは、どうやらあまりしないらしい。
――炭で焼くと、どうしても炭臭くなるのが難点よね。
「その炭の香りがいい」という意見もあるのだろうが、これが続くと炭に飽きるのだ。
雨妹としては、前世の石焼き芋の屋台から連想してのことである。
焼き石は鉄板に比べて冷めにくいので、保温の点でも抜群だ。
この国でも鉄板の代わりに石を熱して焼くという調理法はあるのだから、発想があと少し届いていなかったのだろう。
なにはともあれ、これで休憩時間に火おこしに時間を費やされることなく、おやつを楽しめるというものだ。
その代わり朝にわざわざ早起きして、石を熱々に熱しておく必要がある。
けれどおやつを楽しむための労力は、惜しまない雨妹なのである。
というわけで、雨妹たちは早速石焼き壺に芋を放り込み、待つことしばし。
壺の中からいい香りがしてきた。
熱の通り具合を確かめつつ、いい感じに焼けた芋を取り出した。
「んむ……ほんとだ、ほんのり甘い!
なにも味を足さなくても、美味しいですね~♪」
「干し芋とは段違いの美味さでぇ」
雨妹と呂は石焼き芋を頬張ると、ホクホク顔になる。
そんな雨妹たちを見つめる視線が刺さるが、壺はあまり大きいものではないので、せいぜい自分たちに加えて一人分の饅頭が焼ける程度であり、大勢に使わせるわけにはいかないのだ。
というか、焼き石壺くらい自分で作ればいいと思う。
「お前たち、屋台でも始める気か?」
そんな中、明が焼き石壺で調理をする雨妹たちを見て、声をかけてきた。
「ふふん、便利でしょう?
炭を使わない焼き石調理なので、小火を出す危険も減りますし」
「……そういう知恵は、人一倍回る娘だな」
胸を張って説明する雨妹に、明が呆れ顔になる。
「おい、この饅頭を温めてくれるとありがたい」
しかし後ほど、こう述べて焼いてもらおうと饅頭を差し入れるのだから、明とてなかなかのちゃっかりさんである。
この饅頭が雨妹と呂の分もあったので、焼き芋をお裾分けしてあげた。
――立勇様、お腹を空かせてないかなぁ?
移動中は立勇が友仁の軒車にぴったりとついているようなので、気軽におやつ休憩もできない身だろう。
普段絶妙な頃合いにおやつを差し入れられることがある雨妹なので、そのお返しをしてあげたく思う。
休憩の時に焼き芋を差し入れるとして、それを見た友仁も欲しがらないだろうか?
「仲間外れも可哀想か……。よし、呂さんまだ芋ある?」
「おう、たんと買ったさ」
雨妹が尋ねると、呂が芋の入った麻袋の中を見せてくる。
というわけで、せっせと芋を焼く雨妹の乗る荷車周辺は、とてもお腹の空く香りをさせていた。
ちなみに、焼き芋の差し入れは立勇に感謝され、友仁もしっかりと受け取ったのだった。




