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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十一章 南への旅立ち

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401話 初めての刺激

毒見役が頑張って急いで全ての料理を口にして、時折「あち、あちっ!?」と悲鳴を上げたものの、無事にその役目を全うしてくれた。

 雨妹ユイメイとしても、彼の仕事ぶりには敬意を表したい。


「では、食べようか」


こうして食事の準備が整ったところで、まずシェンが最初に箸を伸ばして料理を食べる。


「うん、いつも通りに美味い。

 さあ友仁も、温かいうちに食べるがいい」

「はい、ありがたく頂きます」


沈に声をかけられ、友仁ユレンが早速目の前の料理に手を付ける。

 料理は今回全て大皿ではなく、それぞれの席に別個小皿で盛り付けてある。

 これは万が一箸を介して、友仁が食べられない食材が混ざることを避けるための、料理人の配慮と思われた。

 その皿の中で、友仁は鶏肉炒めに箸を伸ばす。


「ん!?」


そしてこれを口に入れた途端、衝撃を受けたような顔になる。

 これに即座に反応した胡安フー・アンが、背後で皿を手にして控えたのだが、友仁は後ろを向かず、特に苦しそうにしていない。

 どういうことかと、雨妹は同じ鶏肉炒めの皿を手に取った。


「ああ、なるほど」


友仁の反応の理由がわかり、雨妹は一人頷く。

 この鶏肉炒めには、香辛料が使われているのが香りからわかる。

 どうやら友仁は、香辛料の味に驚いたようだ。

 皇子とはいえ、普段食事に香辛料が使われることはそうそうないのだろう。


「香辛料ですね、ピリッと刺激のある味付けです」


胡安にもわかるように雨妹は説明すると、自分でも料理を口にする。


 ――うん、ピリ辛で美味しい!


 美味しさで幸せの顔になる雨妹を見て、友仁も口に入れたものをゆっくりとモグモグと噛んでから、ごくりと飲み込む。


「味に驚いたけれど、平気だ。

 叔父上、口の中がびっくりする味ですね」


友仁は前半を胡安に、後半を沈に向けて話す。


「子ども向けの味付けにしろと言ったのだが、友仁にはそれでも辛かったかな?

 これが、揚州で主要の交易品である香辛料だ」

「はぁ~」


友仁が感心の声を上げる。


「では友仁、こちらの包子はどうだ?

 中の肉に同じく香辛料が使われているが、鶏肉炒めよりは優しい味だろう」


沈が別の料理を勧めると、饅頭好きな友仁は包子も好きらしく、いそいそと一つ手に取ると、はむっと小さな口でかぶりつく。


「これ、美味しいです」


今度は香辛料の量がちょうど良かったらしく、友仁が笑顔になった。


「これくらいだと、辛さよりも香りを楽しむ感じですかね」


雨妹自身も包子にかぶりつき、友仁と笑みを交わす。


「ふふ、そうだな。香辛料は香りが良いのだ」


沈が香辛料を気に入った友仁を見て頷くと、ちらりと雨妹の方へ視線を向けた。


「だが料理人も蛇や豪猪ハオヂュは避けたらしいな。

 美味いのだが、州外の者はその名を聞くだけで拒否感がある」


そんなことを話す沈は、どうやら花の宴での雨妹との会話を覚えていたらしい。


 ――まあ、初っ端から珍味を出すのは、なかなかの冒険だよね。


 さすがに初めて外出する皇子相手――しかも急遽決まったこの外出に、沈の料理人も色々と考えたのだろう。


「蛇と豪猪、どんなものですか?」


一方で友仁は両方とも見たことがないのだろう、首を捻っている。

 蛇あたりは後宮にもいそうだが、皇子の目につく場所に侵入させるわけがないし、趣味の散歩中でも出くわさなかったようだ。

 けれどその目は好奇心でキラキラしている。

 友仁の食い付きの良さが意外だったのか、沈が眉を上げてみせた。


「両方とも、市場で普通に売っている食材だ。

 どこかで目にすることもあるだろう」

「楽しみにしておきます!」


沈に教えられ、友仁は張りのある声で返事をする。


 ――あ、これ本気で市場を見に行きたい顔だ。


 雨妹は隣から友仁を見て、そう察するのだった。

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