397話 思惑様々
雨妹としても、華流ドラマオタクが大好物なお家騒動ネタだが、それがあの友仁に現実問題として降りかかってきているのでは、お気軽にニマニマと楽しめない。
「今後の友仁殿下は自力で、後ろ盾となる胡家への伝手を……できれば皇太后派ではなかった者たちとの伝手を作らなければならない。
それにうってつけなのが、あの胡安という人なんですね?」
「そういうわけだ」
雨妹が考えを整理しつつ述べるのに、立勇が頷く。
――単なる後宮からの一時避難、っていうことだけじゃあ済まなそうだなぁ。
だが言われてみれば、友仁皇子は数年後に後宮を出て、皇子として独り立ちすることが決まっている。
後ろ盾の弱い皇子を我が意のままに、と考える者もそれなりにいることだろう。
しかしそれだって、数年の猶予があったはずだった。
先だって、皇太后が失脚するまでは。
後宮の権力構造が崩れたことで、己の力が削がれることを恐れた一部の者らによって、弱い皇子を取り込もうとする流れが加速したのかもしれない。
胡昭儀はその流れを感じて、「友仁の行く先を悪いものにしてはならない」と危機感を抱き、皇帝を頼ったのだ。
一方で胡安の方とて、友仁が己の得となる主であると確信がなければ、一族の今後を賭けようとは思えないだろう。
得とは現在の物でなくとも良い、将来的に得になるかどうかだ。
その点まだ子どもである友仁は、今後どのように化けるかは環境次第とも言えるので、早期お買い得物件となり得る。
そして友仁の方でも、胡安が己を盛り立ててくれる人物かどうかを見極めなければならない。
つまり、主従での相互面接状態である。
友仁の今回の旅での宿題は、ひょっとして沈から学びを得ることよりも、この胡安に認められることなのかもしれない。
この友仁の外出が、そんなに大勢の意図が入り混じっていたとは思わなかった。
ひょっとして友仁の今後の身の振り方について、宮城ではかなり前から懸案事項として挙がっていたのだろうか?
――う~ん、皇子の身分って面倒!
自分の身の振り方について他人からやいのやいのと言われなければならないなんて、うざったいにも程がある。
雨妹ならば絶対に面倒事は嫌だし、逃げ出したくなったことだろう。
こうして雨妹が内心で渋面になっているのはともかくとして、立勇が話を続ける。
「実はな、あの胡安を陛下へ推薦したのは、明賢様なのだ」
「そうなんですか!?」
意外なことを言われて目を見開く雨妹に、立勇が述べる。
「今、沈殿下が第一線を退かれた後に友仁殿下を、という考えが一部の者から上がっている。
沈殿下はまだお年を召されているわけではないが、替えが効かない立場というものは色々と不安な面があるからな」
「揚州って交易の要所ですし、そこ守る立場となると、国の内外から狙われるかもですね」
沈の立場について、雨妹はそう見解を述べる。
いや、それ以前に人間いつ何時急な大病に襲われるか、わからないのだ。
極端な話、明日にでも食あたりでコロッと死んでしまうかもしれない。
なので後を頼める人間を作っておくことは大事だ。
しかし、沈の思惑はそれだけではないらしい。
「加えて沈殿下は、そもそもやる気という点にいささか欠けるというか……もっと楽に生きたいと御所望なのだ」
「あぁそれ、なんかわかる気がします」
雨妹は即納得してしまう。
なるほど、沈は皇帝と同じく楽隠居を希望組ということか。
他に人がいないから仕方なくその椅子に座っているだけで、好きで座っているわけではないらしい。
「そこへ人員配置に口を挟んだ明賢様としても、もちろん単なる好意からの口出しではなく、計算がある」
「まあ、それはそうでしょうね」
立勇の言葉に、雨妹も同意する。
太子とて単なるお人よしではなく、利があると思ったからこそ首を突っ込んだのだろう。




