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39話 宴の始まり

阿妹(アメイ)も一応女なんだから、お洒落をしないと」


そう言って妙に張り切る美娜(メイナ)だが、雨妹(ユイメイ)としては困ったことになった。


「あの、私、あんまり目立ちたくないんですけど」


雨妹がおしろいの粉でくしゃみをしたくなるのを懸命に堪えながら告げると、しかし美娜は笑顔で返す。


「安心しな、アンタよりも目立つ派手なのがゴロゴロしているから」


「あー……」


この台詞に、雨妹は気合が入り過ぎて空回り気味の宮女の面々を思い浮かべる。


 ――まあ確かに、仮装大会に出場するのかっていう人がいたけどね。


 その筆頭が(メイ)なのだが。

 なんかすごく派手な鳥の羽を頭に刺して、とにかくすごい出来栄えだった。

 もう本当に「すごい」しか言葉が出ないくらいに。

 あれに比べれば、確かに少しの化粧は地味だろう。

 そんな安心できるのか微妙な対比を考えながら、頬にも軽く色を入れられ、唇に紅をひかれる。


「よし完成! アンタって化粧が映える顔だね」


満足そうな美娜に、雨妹は眉を寄せた。


「……それって顔が平凡だって意味ですよね?」


化粧というのは目鼻立ちがはっきりしているよりも、薄い顔立ちである方が、効果を発揮するものなのだ。

 ともあれ、顔が完成すれば次は髪を整える番だ。

 美娜は慣れた手つきで髪を綺麗に纏めると、置いてあった簪を取った。


「この簪どうしたんだい?

 簪なんて持ってなかっただろう?」


美娜が簪をさしながら興味深そうに尋ねる。

 普段の雨妹はこんなものをしていないし、部屋に置いてあるのも見たことないからだろう。

 立彬(リビン)にさして貰った時も、あの後すぐに外したので誰にも見られていないのだ。


「これは貰ったんです」


雨妹は嘘をつくこともないので、本当のことを話す。


「なんだい、アンタも隅に置けないねぇ」


美娜が若干ニヤニヤしているのは、色っぽい内容を期待しているからだろう。

 しかし残念ながら期待に沿えそうにない。


「よく話す宦官の方から、簪の一つでも持ってろって言われて貰ったものなんですけどね」


この説明を聞いた美娜が複雑そうな顔をする。


「宦官をひっかけたのかい?

 いいような不毛なような」


 ――まあ、そういう感想になるよね。


 美娜の反応は、宮女にとっては普通のものだ。

 宦官を相手にしても子が望めないので、どんなに美青年でも彼女たちにとっては相手になり辛いのである。

 そんな話はさておき、美娜のおかげで雨妹もこうして一応、花見の花としての体裁が整ったわけで。

 それから慌ただしく会場の最終準備をすると、いよいよ花の宴が始まった。


 主会場となっている庭園に集まった妃嬪(ヒヒン)たちが、それぞれにお茶をしながら歓談をしている。


「まあ素敵ね」


「今年も花が美しく咲いたこと」


そう言葉を交わし合う姿は優雅である。

 雨妹はその様子を遠目に納めながら、会場の端っこの方でぼうっと立っていた。

 美娜たち台所番などは料理の追加などで忙しくなるが、雨妹たち下っ端宮女はそうした仕事はもうない。

 強いて言えば、賑やかし要員としてそこいらに並んで立っているのが仕事である。


 ――これじゃあちょっと料理をつまみ食いなんてできそうにないね。


 そうなると雨妹には、人間観察くらいしかすることがなく。

 自分の青っぽい髪が目立たないように、背の高い宮女たちに紛れるように立ちつつも、妃嬪たちの様子を覗き見する。

 雨妹が配置された場所は太子宮方面ではないため、太子や立彬の姿は見えない。

 その代りよく見えるのが上級妃嬪たちである。


「まあその髪飾り、新作ではなくって?」


「そちらこそ、その衣装は最近流行り出した染め物ですわね」


彼女たちはお互いについて褒め合いながら、和気あいあいと花見を楽しむ。

 しかしよく見れば、彼女らは二つの集団で纏まっていることに気付く。

 庭園の奥の最も景色のいい場所に陣取っている妃嬪たちと、そこから離れた場所に固まっている妃嬪たちとに自然と分かれているのだ。


 ――皇太后派と、そうじゃない人たちかな。


 宮女たちのひそひそ話に耳を澄ませば、庭園奥の集団で中心に座る年配の女が、噂の皇太后だという。

 確かに、そのあたりからことさら賑やかそうに声が流れてくる。


「そこの女、こちらに酒を回せ」


「こちらには料理を持って来い」


女官や宮女に命令口調で指示するのは、宦官ではない男たちだ。

 皇太后の周囲に数人侍っている男たちは、どれも皇帝と同世代に見える。

 彼らは皇帝の兄弟皇子だろうか。

 それ以外にも若い男の姿があり、妃嬪たちと楽しそうに話している。

 そちらの方は太子の兄弟皇子だろう。


 ――アレが近づいたらダメな人たちか。


 ここで宮女たちに埋もれている間は、恐らく彼らの視界に入ることはないと思われるので、ここでじっとしておくのが吉だと思われた。

 ところがやがて問題が発覚する。

 暖かくなってきたとはいえ、じっと立っているだけだとだんだん身体が冷えて来るもの。

 冷えると尿意を催すのは自然の摂理であるからして。


「ちょっと、お手洗いに行ってきます」


雨妹は近くの宮女にそう断って、その場を離れることとなった。

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