394話 友仁の体調検査
友仁の部屋の前には、明が護衛として立っていた。
「友仁殿下の体調を伺いに参りました」
雨妹は室内に声が聞こえることを考え、明に丁寧に用事を告げる。
「友仁殿下、医官助手が参りました」
明は友仁が滞在する部屋の扉を叩いて伺いを立てると、しばらくしてからその扉が開く。
中から顔を出したのは、友仁のこの旅の間の傍仕えだ。
友仁は今回、後宮の人員を連れてきていないようである。
なので当然、雨妹もこの男のことは知らない相手だった。
友仁の身の回りの世話をするこの傍仕えは、他の面々のように雨妹のことを、「あんな小娘が特別扱いを受けるなんて!」というような視線を向けて来ない。
内心がどうかは知らないが、主の前で個人的感情を見せないようにする分別があるのだ。
この男は皇帝側の者が仕事の出来る人をと選んだようで、本来は宮城の文官だということだった。
皇族の傍近くにいることを許されるくらいなので、相応に良い家柄の人なのだろう。
「医官助手殿、どうぞこちらへ」
促されて雨妹が部屋の中へ足を踏み入れた途端。
「雨妹!」
友仁の声が響いてきた。
雨妹が声のした方に視線を向けると、友仁が雨妹の姿を見て、ホッと安堵した様子である。
――友仁殿下、なんだかんだで箱入り育ちだからなぁ。
特に後宮という環境のせいで、これまで女性と宦官ばかりに囲まれていたため、普段は皇帝と太子以外の成人男性と身近に接する機会がなかった。
だから今までにない男性の兵士や官吏が多い旅の一行の中で、やはり緊張していたのだろう。
「友仁殿下、移動でお疲れではございませんか?」
雨妹が傍まで行って尋ねると、友仁はこくんと頷く。
「ちょっとだけ、疲れたかも」
「そうですね、軒車ってずっと乗っていると、疲れますものね。
わかります」
正直に答えた友仁に、雨妹も佳への移動の時のことを思い出し、ふふっと笑って同意する。
――けど、想像よりも案外元気そうだなぁ。
雨妹としてはこの初めての外出で、友仁が体力的にもっとぐったりしていると思っていたのだが。
そう言えば、友仁は食物過敏症と認められてちゃんと食べられる食事を与えられるようになって以来、散歩を趣味にして後宮をあちらこちら歩き回っていた。
なんでも目的は「後宮の庭園全制覇」らしい。
そんな趣味のおかげで体力がついているということか。
それでも後宮の外での生活は初めてのことなので、雨妹としてもそのあたりを慎重に診なければならない。
というわけで、雨妹はまず世間話をして声の調子を確認し、それから脈を計ったりと、色々と確認する。
「殿下、こちらで口を開けてもらえますか?」
「ん」
そして雨妹は友仁に灯りの方を向いてもらうと、口の中を覗き込むと、喉が少々赤くなっていた。
この症状は、乾燥と土埃が原因だろう。
「殿下、しゃべり辛くないですか?」
「時々、ンッってなる」
雨妹の問いに、友仁が頷いてそう告げる。
――環境によって、呼吸の仕方とかもあるもんなぁ。
雨妹とて、辺境は砂漠に近いのでどうしても砂っぽい風が吹くことから、できるだけ砂を吸わない息の吸い方というものを会得していたものだ。
友仁はこれまで、国で最も環境が整えられた場所である後宮にいたのだから、呼吸の仕方なんていうことを考えたことがないのだ。
「土埃で喉を傷めたのでしょう。
身体がこの環境での過ごし方に慣れれば、自然と良くなるでしょう」
「そうなの?」
雨妹の説明に、友仁が不思議そうに首を捻る。




