表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十一章 南への旅立ち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

392/682

388話 皇子との会話は気を遣う

雨妹ユイメイ友仁ユレンの体調観察をしている間、皇子たちの傍仕えは手際よく、休憩のための卓やらお茶やらを用意していく。

 その様子を横目に、友仁がため息を吐いた。


「長く軒車に乗っているのは、辛いんだね」


長距離移動の辛さを体感して、少々しょんぼりしている友仁に、背後から声をかけたのはシェンであった。


「ははは、慣れておらぬとそうであろうよ。

 徐州への道ほどに、こちらも整備できればいいのだがな。

 他に金を割くべき案件が多くて、そこまではできんのが現状だな」


そう言って「やれやれ」といった表情の沈に、友仁はなんと返せばいいのかと、困った顔になる。


 ――友仁様は余所の道路事情とか、そもそも見たことがないものね。


 勉強して知識としてはあるのかもしれないが、聞き知っているのと実際に目で見るのとでは大きな違いがある。

 かといってその「知らない」ということを、上手く会話に組み込む術も今の所持ち得ていないらしい。

 傍仕えも皇子同士の会話に割って入る無礼ができないでいて、結果この場が微妙な空気になってしまっている。


 ――沈殿下も、友仁殿下相手に優しい会話をしよう、っていう感じじゃあないのかな。


 それともこの会話も、友仁の教育の一環なのだろうか? もしかすると皇帝から、なんらかの指示が出ているのかもしれない。

 けれど無言のままなのは良くないと思い、雨妹は助けを出すことにする。


「沈殿下、山の中にこれ程の道があるだけでも、私は嬉しいです。

 なにせ私が辺境から来た道のほとんどは、獣道よりはいいという程度でしたから」


雨妹がそう話すのに、沈は「ほう?」と声を上げる。


「辺境からとは、それは道も厳しかろうな」


眉を上げて興味を示す沈に、雨妹は「それはもう」と返す。


「辺境は近くの里に下りるまでは荷車も通れないので、私たちは大荷物を担いで崖すれすれの道を歩くしかないのです。

 おかげで度胸がつきますし、逞しくもなります」

「それはそれは、強靭な身体になりそうだ」


雨妹の説明に沈が感心すると場の空気が和らいで、友仁も肩の力を抜いたのがわかる。


「道にも、色々あるのか」


後宮の道しか知らない友仁が見上げてくるのに、雨妹は頷く。


「そうですよ。

 今通っている道だって、その色々のうちの一つです。

 ですから、道を一つお知りになりましたね、友仁殿下」


雨妹がそう言って微笑みかけると、友仁は嬉しそうになる。

 そしてここで、雨妹は話を乗り物酔いの件に戻す。


「乗り物酔い対策として、移動の際に軒車の窓を開けて、外の風を入れるといいですよ。

 安全と土埃対策で閉め切っているのでしょうが、体調を害するのも問題ですので、護衛の方に相談することをお勧めします」


この雨妹の言葉が聞こえたのだろう、護衛であるミンが離れた所からこちらに近付いてきた。


「道幅から考えると、横は守りが薄いので勧められませんが、前か後ろならばいいでしょう。

 それに前の窓を開けると、先の景色が見えていいのでは?

 それに薄布を張っておけば土埃も防げる」


さすが皇帝に付いて旅慣れているという明である。

 この的確な助言を聞いた者が、軒車の中を整えに向かう。

 そうこうしていると、皇子のための休憩の場が整ったようで、こちらへ呼び声がかかる。

 すると、友仁が雨妹の袖を小さく引いた。


「雨妹、一緒にお茶をどうかな?」


友仁がおねだりするように上目使いで尋ねるが、生憎と雨妹にはやるべきことがある。


「ありがたいお言葉ですが……実は、あちらで私にも『お楽しみ』が待っているのです」


後半の言葉を友仁だけに聞こえるように、ひそっと言って視線を向けると、友仁からも煙が上がるのが見えたらしい。

 あれは、リュが鳥を焼いている煙だろう。



「そう、なら邪魔してはいけないか。

 今度、私も誘ってね?」

「その時は、くれぐれも内緒ですよ?」


ひそひそと話をしながら、雨妹と友仁は笑みを交わした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] いつも楽しく拝読しております! 雨妹と友仁の仲が良くてほっこりします。 実のところきょうだいの会話でもあるのだなあと、和みながら読ませていただいています(*´◡`*)
[一言] そういえば、テレビで中国の昔の道で崖の穴に丸太が1本通してあるだけのアスレチックみたいな道があったのを思い出しました。 今は車も通れる道が出来ているので、地元民しか使っていないみたいですが、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ