385話 集合してみたら
そんなわけで数日が過ぎ、雨妹が友仁のお供として旅に出る当日の早朝。
雨妹は包みを背負って木箱を片手に持ち、待ち合わせ場所である乾清門へと向かうと、そこには既に大勢の人が集まっていた。
軒車を数台、荷車も数台ある周囲で、様々な人が行き交っている。
――そっか、前に太子殿下と佳へ出かけた時は、お忍びだったもんね。
あの時に雨妹が顔を合わせた面子は、太子と立勇だけだった。
それが今回はお忍びではなく、堂々と向かうのだ。
当然護衛やらお付きやら、皇子二人分が大勢同行するわけで、こうして人数も多くなるわけだ。
ということで、さて雨妹はどのあたりに合流すればよいのだろうか? と周囲を見渡していると。
「雨妹、こちらだ」
聞き慣れた声がしたので振り向けば、そこには鎧を着込んだ立勇が立っていた。
雨妹は今回、知り合いがいると思っていなかったので、立勇がいることに驚く。
「あれ、ひょっとして立勇様も同行するのですか?」
それとも単なる見送りかと考えた雨妹の問いかけに、立勇が頷いた。
「ああ、友仁殿下側から要望があった。
相談相手になれる者が欲しいとあって、殿下の周囲の者から私が選ばれたのだ。
明様もいらっしゃるぞ、あの方こそ陛下に付き添って国中を駆けまわっているからな」
「ほうほう!」
立勇の説明に雨妹が視線を巡らせると、確かに明の姿を発見できた。
後宮から出たことのない友仁であるから、守ってくれる近衛にも知り合いはいないだろう。
さらには胡昭儀の実家への協力も頼みにできない様子なので、こうして皇帝と太子の伝手を頼ったのだろう。
本来はこうして他者に伝手を頼むことは「家の恥」とされるのかもしれないが、恥を恐れて友仁を危険に晒す方が本末転倒だろう。
――うん、やっぱり胡昭儀はちゃんとお母さんだね。
ただ、今回の同行者に立勇が選ばれた理由として、明から「雨妹が同行するなら、説教役として立勇が必要だ」と強く推されたという事情もあるが、それは雨妹には語られなかった。
それはともかくとして。
「私、どの位置で同行すればいいんですかね?」
雨妹の疑問に、立勇が答える。
「今回、側近以外の供は荷車での移動となるので、お前もそちらだ。
一応風よけの布くらいは張ってあるが、まあ腰は痛くなるな。
不満があるなら、今のうちに言え」
「いえ、荷車大歓迎です、自由でいいじゃないですか!」
立勇の言葉に、雨妹はブンブンと首を横に降る。
軒車近くにいて偉い人に囲まれて会話に困るくらいならば、荷車の方が断然いいというものだ。
うっかり軒車に割り振られないようにと、雨妹が前のめり気味に主張すると、立勇に「わかった、わかった」と一歩引かれた。
ちなみに、今回雨妹の身分は医局の臨時助手であり、友仁の体調管理のために同行している形となる。
とはいえ、友仁側はやはり雨妹を堂々と付き添わせることは避けたらしく、それでこのような待遇なのだろう。
友仁は皇子として、自分の身の回りを己で整えて安全を図る方が楽だが、一方で沈の計らいに身をゆだねて信頼を表することも必要で、この両方を上手い具合に均衡をとるのは案外難しい。
同じ皇子という立場だからこそ、身分というのがややこしいのだ。
――ああやだやだ、一般人でいるのが一番気楽だって!
雨妹としては友仁と沈の皇族としての関係性が不確かな中で、両者の摩擦の間に放り込まれるのは避けたい。
そうした揉め事は、外側から見るくらいでいいのである。
というわけで、雨妹は素直に荷車へと案内された。




