384話 劇的改造計画
そんなわけで、友仁のお供として揚州へと向かうことになった雨妹であるが。
「はぁ~、揚州かい。
そりゃあ雨妹に似合いの行き先だねぇ」
雨妹の家に遊びに来た美娜にこのことを報告すると、そんな風に感心されてしまった。
「新しい食材はたいてい、揚州から来るものだからねぇ。
きっと見たことのない食材がたんとあるだろうさ」
美娜のこの話だと、揚州とは以前に沈が言っていた通り、食に強い場所であることは間違いないようだ。
ちなみに外の国から物資が入ってくるのは徐州も同じなのだろう。
だがあちらは海を越えてやって来るため、潮の流れで往来期間が限られたり、船にそう大量の荷物を積めなかったり、あとは食材の保存問題であったりと、色々な問題がある。
それに大きな港があるのは佳だが、他の漁村の海は浅瀬の岩礁地帯がほとんどで、大きな船をつけられるような場所がない。
それは地図上では海に面している徐州以外の州も同じことで、やはり船が接岸できない。
その一方で、揚州の道とてそう簡単ではないのかもしれないが、商隊の往来は通年を通して可能であるという。
しかし揚州から西にある荊・與・梁の三州は、険しい山脈だったり辺境の砂漠だったりを挟んでいるため、人の往来が盛んというわけではない。
こうして揚州に集められた他国からの荷は、佳の港へと運ばれて、さらに他国へと向かうこととなる。
この通商路は崔国経済の要とも言える、唯一の外商の道なのだ。
前世でいうところのシルクロードといったところか。
それに佳の利民にとって揚州の沈はお得意様であると同時に、潘公主と結婚した今では、義理の伯父でもあるわけで。
やりやすいのかやりにくいのか、微妙な関係かもしれない。
――けどまぁ、それで言うと揚州は友仁皇子の外交とか、経済のお勉強にはもってこいか。
皇帝は友仁を軍事よりも、外交や経済に強い皇族として育てたいのかもしれない。
国としては、たとえ軍隊が強くて力づくでいう事をきかせることができても、経済に弱くて結果相手の要求の目的のなんたるかを理解できず、結果損をしてしまっては、強い軍隊も意味を為さないだろう。
それに現在宮城で太子に対する風当たりが強いのは、宮城内での発言力が軍事一強のようになっているのも一因らしい。
戦乱による国の弱体化からようやく回復した頃合いなので、未だ戦乱期の態勢を引きずる面があるのも、仕方ないのかもしれない。
けれど皇族間で経済派閥の力が増せば、太子への風当たりも変わってくるだろう。
――戦争大好き脳筋国家なんて、住みたくないやい!
太子にはぜひ仲間を増やし、平和で暮らしやすい国にしてほしいものだ。
そんな崔国の外交事情はともかくとして。
「え、美娜さんも外に出るんですか!?」
美娜からびっくり情報を聞かされ、雨妹は目を丸くする。
「そうなんだよ」
美娜は短期間ながら、後宮の外に出る組に入っていた。
なんでも宮女たちの数が減ることで、各所にある食堂もいくつか余所と纏められて閉鎖されるのだそうだ。
「どうせなら使う台所を広くしようっていう事らしいよ。
設備も古くなっているのを、やりくりしながら使っている所もあるっていうし。
そのあたりもちゃんと新しくしてくれるってさ」
美娜が夜のおやつにと持ってきた手作り麻花を齧りながら、そんな風に言う。
――なんか、やっていることが後宮大改造っていうより、学校の合併みたいだなぁ。
雨妹はそんな感想を抱く。
子どもが増えたために学校も増えたが、子どもが減れば学校も減る。
雨妹は前世で、この増えるのも減るのも目の当たりにした世代であった。
「それで、美娜さんはどこに行くんですか?」
雨妹はそう尋ねたものの、台所番が外に出てやることといえば、当然料理の勉強らしい。
「山か海かを選べって言われてね、アタシは山だよ。
だって海って暑いっていうじゃないか」
「なるほど、山の幸ですか!」
美娜の答えに、雨妹は目を輝かせる。
山組は都近辺で蜂蜜の産地である里辺りに行くらしく、海組は佳の街へと向かうとのことである。
どちらにしろ、珍しい料理を覚えて帰ってきてほしいものだ。
――それにしても、改造中の百花宮はさぞ不便だろうなぁ。
雨妹は人が減った状態を想像して、内心で苦笑を漏らすのだった。




