382話 合流できた
なにはともあれ、雨妹と友仁が二人でニコニコして顔を見合わせていると、太子が声をかけてきた。
「友仁、人との仲が拗れる時は、些細なことでも取り返しがつかなくなるまで拗れることもある。
そうなる前の早めに動いたことは、友仁の勇気の結果だ。
偉かったぞ」
確かに、友仁がこの件で行動しなかったら、「母上に嫌われた」と思ったまま百花宮の外に出るわけで、そうして胡昭儀から離れてしまうと、真実がなにかということを確かめられなくなる。
沈の口から事情が語られたとしても、友仁が果たしてどれだけ沈の話を信じるだろうか?
友仁から沈についての話が出てこないので、恐らくは接触がほぼないのだろう。
雨妹が友仁のいたごみ焼き場を使おうと思ってやってきたのは運であっても、行動しないと運だってつかめないのだ。
「兄上、ありがとうございます! へへへ……」
太子に褒められ、友仁が照れたように俯いた、その時。
「友仁様あぁ~!」
遠くから、誰かの泣き叫ぶ声が響いてきたかと思えば、トトト、と軽い足音が徐々に近づいてくる。
そしてステーン! と転げた音がしたあとでひと騒ぎあって、やがてこの部屋の扉が開かれる。
「やっとお会いできましたぁ~!」
そして現れたのは、友仁の側付きの宮女である。
登場がなんとも賑々しい娘は、額が少々赤くなっている。
どうやら先程転げて額を打ったらしい。
「如敏大丈夫? はぐれてごめんね?」
友仁は謝罪を口にしながら、額を赤くする宮女の如敏を心配そうに見る。
一方、雨妹も見知っている友仁付き宮女の如敏は、その目にぶわりと涙を溜めた。
「どこを探してもいらっしゃらないので、もうどうしようかと……!」
如敏は格好も若干よれているので、本当にあちらこちらを探していたのだろう。
ただ、どうやらかなり早い段階で友仁と逸れたようなので、如敏が探していた場所は全く見当違いの場所であった可能性が高い。
「ほら、泣かないで」
友仁が懸命に慰めているが、これではどちらが主なのかわからない。
この主従の様子に立彬は眉をひそめ、太子は苦笑するばかりである。
それから如敏が落ち着いた頃合いを見図り、友仁の口から太子宮までやってきた事情が語られた。
「まああの方ったら、そのようなことを吹き込んだのですか!?」
友仁が心を痛めた切っ掛けである女官について、如敏は目をつり上げた。
「今は宮が一丸となって対処しなければいけないと聞いておりますのに、余計なことをして!
大丈夫、殿下が意地悪をされたのだと、姉様方にちゃあんと言いつけておきますからね!」
プンプンと怒っている如敏は、どうやら友仁が意地悪を言われた現場に立ち会っていないようだ。
むしろ、友仁が一人でいる瞬間を狙ったのだろう。
――その女官とやらは、大方胡昭儀が失脚した後釜を狙っている口かな。
雨妹はそのような想像をする。
以前に友仁の側付きの女官であった文君といい、胡昭儀には身内に敵が多いようだ。
それはともかくとして。
友仁もこれから百花宮をしばし留守にするとなれば、その準備で忙しくなるだろう。
「友仁、旅をするのは初めてだろう?
傍仕えたちに話を聞いて、荷造りを始めなさい。
宮女や女官たちに任せても困らないだろうが、己の身を己で整えるのも訓練だ」
太子にそう告げられ、友仁も旅の支度という作業に思い至ったらしく、目を丸くしてから大きく頷く。
「はい、やってみます!」
意気込んで表情が硬くなってしまった友仁だが、こんな旅立つ前から硬くなっていては旅に出た途端にくたびれてしまうだろうに。
「友仁殿下、きっと旅は楽しいですよ。
ここでは見られない景色がたくさんあります」
雨妹がそう語ると、友仁は硬くなった頬を微かに緩めるのだった。




