380話 太子に相談
それから立彬が連れて行ったのは太子の元である。
太子は今ちょうど休憩していたようで、秀玲がお茶を淹れていた。
「よく来たね友仁、そして雨妹」
太子がにこやかな笑顔で迎え、席に着くように勧めてきて、秀玲も友仁と雨妹の分のお茶を淹れてくれている。
だが太子がすぐに眉をひそめて、友仁に話しかけた。
「ところで友仁、今日のお付きが雨妹だということではないのだろう?」
「あ!」
「ああっ!」
ここでようやく、友仁も雨妹もお付きの宮女の存在を思い出したのである。
「どうしよう、どこでいなかったか、覚えていない」
友仁が青い顔になる。
この友仁は最近の趣味が散歩らしく、よくフラフラと歩きまわっている姿に出くわすのだが、同時によくお付きと逸れもするのである。
お付きの宮女は少なくとも、己の主がこうして太子宮にお邪魔しているなんて、思ってもいないことだろう。
「……二人とも忘れていたね?
探してこちらへ連れてくるように言っておくよ」
友仁と雨妹の様子を見た太子は、「仕方ないなぁ」というように苦笑するのだった。
その後しばしお茶を飲んで友仁の気分を落ち着かせ、雨妹も有り難くそのご相伴に預かる。
そうやって友仁の様子が落ち着いて見えたところで。
「それでなにが聞きたいんだい?」
太子が問いかけてきたのに、友仁がハッとなり、ここへやって来た目的を思い出したようだ。
「それが、あの……」
友仁が遠慮がちにだが、雨妹に話したのと同じ内容を太子に話す。
「なるほどね」
聞き終えた太子はゆったりと頷き、特に深刻そうな風には見えない。
「それは半端な話を聞いてしまったものだ。
それに友仁に対して意地悪をしたい女官だったんだろうね」
太子はこのように感想を述べてから、改めて友仁を見つめる。
「友仁、先の花の宴の騒動について、どれ程知っているかな?」
太子に真面目な顔で尋ねられた友仁は、しゃんと背筋を伸ばして答える。
「皇太后陛下が悪者をたくさん隠していて、その者らが火事を起こしたと聞きました」
「うん、おおよそその通りだ」
太子が満足そうに告げたのに、友仁がホッと息を吐いた。
確かに花の宴での騒動を子どもにわかりやすいように凝縮すると、こんな説明になるだろう。
「それで今は、他の宮にも悪者が隠れていないか、大急ぎで調べているところなんだ」
太子がそのように言葉を続ける。
そして胡昭儀は皇后と四夫人を除けば、妃嬪たちの筆頭となる。
その上皇太后派であったとなれば、当然身辺の取り調べも厳しいものとなる。
そのような騒がしい宮の中に友仁を置いておきたくないというのが、胡昭儀の母心からの考えであるらしく、皇帝へ友仁を外に出したいという申し出があったそうだ。
かといって、ではどこへ出すか? という懸案が出る。
というのも、皇太后派に属していた友仁の身の振り方についても、問題になっているのだという。
そろそろ皇族として独り立ちについて考える年頃でもある友仁だが、通常であれば独り立ちの進路について、派閥の長がこの皇族の仕事を斡旋することになる。
だが今、その長である皇太后が尼寺行きとなってしまった。
そうなると、友仁の皇子としての将来設計が、宙に浮いた状態となってしまったのだ。
けれど胡昭儀としてはこれらの件で、実家を頼るのも考えものなのだそうだ。
胡昭儀個人は、胡家の中で決して立場が強いわけではないという。
それに友仁は後宮育ちで実家には知り合いなど皆無であるし、当然後宮の人員を実家に伴わせることもできない。
子どもをそのように知り合いの誰もいない家に一人で放り込むのは、さすがに哀れであろう。
さてどうしたものか、と胡昭儀が困ってしまったところへ、口を出してきた人物がいた。
「友仁の身柄は、我が預かろう」
そのように声をかけてきたのが、沈天元である。




