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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十章 争乱の宴

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370話 再会の双子

ユウ、びっくりした、びっくりしたぁ~!」


そんなことを言うジンに、そっくり宮女がぎゅっと抱き着く。


「静静、そんな可愛い姿をしていたら、閉じ込めたくなるじゃないかぁ!」


満面の笑みを浮かべるあの宮女が、なんと宇だという。

 確かに双子らしいそっくり具合だが、宇は弟だったはずだ。

 百花宮へ忍び込むために、女装しているのだろう。

 それによく見ると、宇の方が静よりも背が低い。

 双子といえども、やはり子供の頃は女児の方が成長は早いのか。

 このようにこの場がだんだんと混乱してきて、収拾がつかなくなっていたのだが。


雨妹ユイメイ、無事かぁ!?」


チェンの声が響き、外の物音が止んだところで様子を見にきたようだ。

 ここで、雨妹はそもそもの仕事を思い出す。


「そうだよ、まだ治療の途中だった!

 陳先生、ここにいます!

 皆さん、大丈夫でしたか!?」


使命感が金縛り状態から解放させて、雨妹は井戸端に固まったままの患者たちの元へと駆け戻った。


「あ、私も!」


続いて静もハッとなり、宇を振りほどいて雨妹の後を追う。

 結果として、大偉は雨妹から放置された形になった。


「くくっ」


そのほったらかされた主を見て、飛が面白そうな顔になる。


「飛、ここに残れ」


その飛に、大偉は冷めた目をやって命令した。


「いや、残るもなにも」


ぼやきが漏れる飛がそもそもここへいるのは、皇帝からの指示である。

 かろうじて花の宴に間に合った大偉は、まずは皇帝へ挨拶に行った。

 そこで大偉にくっついて潜んでいた飛は、雨妹の無事の確認を直々に命じられたのだ。

 どうやら影たちの指揮系統が混乱していたらしく、皇帝は大偉の意思でしか動かない飛を動かす方が、事態把握には確実だと考えたのだろう。

 そう、ここへ来るべきは飛だけで、大偉は興味で勝手に同行したに過ぎない。

 用事が済めば、皇帝への報告の続きが待っているのだ。


「僕もここにいるぅ♪」

「……好きにすると良い」


雨妹の後を追う静を見守っていた宇の言葉に、大偉は興味なさそうに許可を出すと、渋々といった様子で宮城へと引き返そうと足を戻す。


「こっちは急がされた上に大忙しだったんだぁ、特別手当を頂いてくだせぇよ?」


そこへ飛が主へ軽口を投げかけるのに、大偉はジロリと見やる。


「ならば、陛下に直接頼むがいい」

「冗談でしょう? 俺ぁ自分の首が大事なんです」


大偉に言われて、飛はしかめっ面になった。


大偉主従の間でそんな軽口が交わされた後。

 中断していた火傷治療を再開すると、その作業を飛という大偉の供の男が手伝ってくれるということで、雨妹としては大助かりである。

 男手が増えたことで井戸水を汲み上げる作業が捗り、ほとんどの患者の火傷の痛みを和らげることができた。

 これでまだ痛い人は、陳の方へと回す。

 その上、飛が火傷用の軟膏を作れるというので、そちらも陳から材料を貰って飛へと渡し、作ってもらう。

 宇の方は、静と一緒に手当てで汚れた布を洗ってもらっている。

 この忙しさもしばらくして落ち着いたところで、雨妹は気になることがあったので、軟膏作りが一段落して、離れた場所でボーッとしている風である飛にスススッと近付く。


「あの、『冷徹の黒豹』ってなんですか?」


そう、先程聞こえた内容が、どうにも気になったのだ。

 けれど雨妹が尋ねるのに、何故か飛がぎょっとして二歩ほど飛びずさられた。

 そんなお化けかなにかに声をかけられたみたいな反応をされると、地味に傷付くのだが。

 しかし、こちらの疑問にはちゃんと答えてくれた。


「ええと、把国第一王子殿下のあだ名ですよ。

 袖の下というか、金でなにかを融通するというのを一切しない方だそうで。

 それで国内からは嫌われ、他国の貿易商人からは頼りにされているっていう話でさぁ」

「……そうなのか?」


雨妹ではなく、この会話を離れて聞いていたらしいダジャが何故か驚いているので、自分がそのように呼ばれていると知らなかったのだろう。

 雨妹は次に、ダジャの方へとスススッと近付く。


「ダジャさん、なにかを融通してほしいって、お金を掴まされるのが嫌いなんですか?」

「無駄な金。

 才能があれば金はいらない、全てがついてくる」


ダジャは嫌いとかそういう感情ではなく、されていることの意味がわからないという顔であった。


「くそ真面目だなぁ、お金を持っていて困ることないし、貰えるものは貰っておけばいいのにさぁ」


ダジャの近くにいてこの会話を聞いていたらしい、洗濯をしながら口を挟んできた宇は、少々口が悪いらしい。


「宇よ」


その宇にダジャは近付くと、傍に膝をついた。

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