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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十章 争乱の宴

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368話 ダジャの戦い方

『もっと騒がせるかと思えば、役に立たない東国人め』


そのネファルが把国語で眉をひそめて吐き捨て、唇をペロリと舐める。


『だがもうどうでもよい、さあダジャルファード様、共に行きましょう!』


そして笑みを浮かべて、ダジャへと襲い掛かる。

 いや、ダジャへというよりも、ダジャが庇っている雨妹ユイメイたちへ、という方が正しい。

 ネファルの目線が雨妹やジンへと向いているのを感じるのだ。

 ダジャが守っている弱者を枷としたいのだろうが、それらの攻撃にダジャが立ちはだかり、全て受け流す。


 ――私は、こういう時は変に動かない!


 妙にウロウロした方がダジャも守りにくいだろうし、自衛能力がほぼ皆無な雨妹は、自分が守られていることを信じるしかない。


「頑張れ、ダジャさん!」

「……っそうだよダジャ、そんな奴ボコボコにしちゃえ!」


雨妹の声援を聞いて、怯えていた静もハッと思い出したようにダジャを応援する。


「言われるまでもない」


ダジャは口の端を上げて雨妹と静に応じ、棍をくるりと回してネファルへと飛び掛かる。

 立彬リビンの棍捌きも凄いと思ったものだが、ダジャもまるで己の手足が伸びたかのように、自在に棍を操り、突き、払い飛ばす。

 しかも身体の使い方が立彬と違う気がするのは、あれが把国流の体術なのだろう。

 大勢を守りながら戦うダジャは、恐らくは形勢的には圧倒的に不利に違いない。

 しかしそうした不利を感じさせない身体捌きや表情は、周囲に不安を感じさせないものだ。

 ダジャにそれが出来る理由を、雨妹はハッと思い至った。


 ――そうか、あの人は王子だから、負けそうって思わせたらダメなのか。


 皇帝もそうだが、国の先頭に立つ者が常に心掛けるのは、後に続く者を不安にさせないことだろう。

 ダジャには未だに、その意識が染みついているのかもしれない。

 それはすなわち、ダジャがそうあるために長い間鍛錬してきた証ともとれる。

 奴隷の身に堕とされ、苦難を強いられたであろうダジャだけれども、それまでの積み重ねは彼を裏切らないのだ。


「ダジャ、なんだか生き生きしているみたい」


戦うダジャを見守る静がボソリと呟く。


「そうなの?」


目を丸くして問う雨妹に、静が「うん」と頷く。


「ダジャは昔すっごく嫌ぁな姫様からすっごくいじめられて、しょんぼりになって、ちょっぴり女の人が嫌いになっちゃったんだって、ユウが言っていた。

 だから態度がひねくれているんだよ。

 けどダジャがあんなに元気になったなら、色々ダジャのことを考えていた宇もきっと嬉しいね」


静が思い出しながら教えてくれたことを、雨妹はよくよく考える。

 王子が奴隷に堕とされるとは、存在を全否定されるようなものだ。

 そのような目に遭ったのだから、立ち直るのは簡単なことではない。

 その上どうやら厄介な相手から陥れられたらしい。

 そんな風に心が病んだ人にやる気を出させるのは、相当難儀だろうに、こうやって静と共に山越えして都へとやってきたわけで。


 ――ねえ、宇くんとやらは、本当に一体なにをしたの?


 雨妹としても、少々どころではなく気になるところである。

 それに静は都に着いた当初、男性に見えるような格好をしていた。

 あれは暴漢対策もあるのだろうが、もしやダジャの女嫌い対策でもあったのだろうか?

 しかし、これを当人たちに確認するのも憚られるので、あくまで雨妹の想像に留めておくが。

 こうして雨妹と静がそんな会話をしている間にも、事態は進む。

 ダジャとネファルの争いは、ネファルが次第に焦れてきたようだ。

 

『我が君、何故それほどまで抵抗なさるのか!?』

『いい加減にしろネファル、破滅の道なら己一人で勝手に往け!

 新たな道を往く我らを巻き込むな!』


必死に訴えるネファルに、ダジャが怒声で叩き返す。


『新たな道など……我が君が変わるなど、許せるものか!』


ネファルの目が憎しみで染まり、その目が雨妹と静に向けられる。


『あ奴らが、我が君を堕落させた悪!』


雨妹たちへ攻撃しようとするネファルの前へ、ダジャが何度目かに立ちはだかった。

 その時――


 ぐんっ!


 何故か、ネファルが微かに体勢を崩した。

 そしてその隙を逃すダジャではない。


『仕舞いだ!』


棍を操りネファルを地面に落としてその上に飛び乗り、身体を拘束する。


『せめてもの情けよ』


ダジャの小さな呟きを拾ったネファルが微かに見上げた、その次の瞬間。


 ガリン!


 奇妙な音が鳴り、ネファルの首があり得ない方向へと曲がったのが見えた。


「……!」


ダジャがネファルの首の骨を折ったと知り、雨妹は思わず静の頭を肩口に抱え込む。

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