366話 大変な医局
こうして急いで向かうと、医局にはやはりというか、続々と怪我人が運ばれてきていた。
「これは、酷い」
医局の建物周辺に大勢が直に地面に転がり、痛みに呻いている様子を見て、ダジャが思わずと言った様子で呟く。
「雨妹……」
そのダジャの隣で、静が青白い顔で不安そうにしている。
恐らくは、これほど大勢の怪我人を見たことがないのだろう。
ダジャの方は軍にいたというくらいだから、ある程度怪我人を見慣れているのか、静ほど動揺した様子ではない。
雨妹は静の頭を撫でてから、患者らの様子を観察する。
――陳先生、手が回っていないんだ。
けれど重傷者はそう多そうに見えないので、重傷者は別に集められているのだろうか?
その状況を確かめるべく、雨妹は静とダジャに外で待ってもらい、医局の建物へと入る。
すると中は予想通り、てんやわんやといった様子であった。
いつも雨妹が尋ねる時は、陳が一人でのんびりと薬を作っていたりするのだが、今は陳以外にもう一人、陳の非番の際に勤めている老医師までもがいて、医官付きの女官であろう女性もバタバタとしている。
そして案の定、ここに重症者が集められていた。
どれも重度の火傷の症状で、治療に成功したとしても、恐らくは火傷の跡が残るであろうと思われた。
「陳先生!
太子殿下のお言葉により、手伝いに参りました!」
雨妹はそんな忙しそうな中へ声をかけると、陳が処置をしている最中の手元から顔を上げた。
「雨妹か、助かった!」
雨妹の姿を見た陳が、あからさまにホッとした顔になる。
「外の患者の手当ては出来るか?
そちらまで手が回らんのだ!」
「やります!」
陳の頼みに即答した雨妹に、老医師の方もちらりと視線を寄越してくる。
「道具はそこのものを、適当に持って行け」
老医師の方から顎で指示され、雨妹は頷いて布や包帯、あとはたくさんの桶を持って再び外へと出た。
外へ出て改めて患者たちを観察すると、火傷と裂傷の患者がいるようだ。
火薬が爆発したことを考えると、この二つの怪我が主なのは当然だろう。
――火傷は、とにかく冷やすことが先決!
雨妹は即座に判断して、声を張り上げる。
「火傷をした人は井戸の近くへ!
治療のために、とにかく火傷を冷やしましょう!
静静、動けない人を手伝ってやって」
「う、うん!」
大勢の火傷患者に慄いていた静であったが、雨妹が声をかけると、気合を入れた目で頷く。
そして雨妹の言葉を聞いた火傷患者はのろのろと立ち上がり、静やダジャ、比較的軽症な者たちに助けられながら、井戸端へと移動していく。
患者たちはこれまで放置されていた状態だったので不安だったのだろう、見捨てられていないとわかり、安堵した顔をしていた。
「どんどん水を汲むので、痛みがなくなるまで冷やしてください。
水は火傷に直接ではなく、ちょっと上からかけていくように」
雨妹が治療方法を告げると、患者は水を求めて桶に群がる。
その桶へダジャに井戸から水を汲んでもらい、どんどんと行き渡らせる。
火傷の範囲が広い患者には、井戸端に大きめの桶が置いてあったので、その桶へたっぷりと水を張り、そこへ直に浸かってもらう。
こうして冷やす際、衣服の下の火傷の場合は脱がないで、衣服の上から水をかけるように言い聞かせる。
でないと、火傷の傷が衣服にくっついて剥がれてしまい、症状が悪化してしまうのだ。
火薬の爆風で飛んできた物で怪我をした患者は、雨妹が手当をしていく。
こうして患者を診ていて、雨妹が気付いたのは。
――上位の宮の人が多いな。
中でも、皇太后宮や皇后宮の宮女が特に多かった。
宮女などはお仕着せの柄でわかるようになっているので、所属が知れるのだ。




