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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十章 争乱の宴

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365話 微妙な空気

このように、多少和らいだ雰囲気になったところへ、立彬リビンが口を挟む。


「建物に引火していないのですか?」

「ああ、どうやら遠くから火薬を投げ込んで火をつけたらしいが、さすがに建物へ不審物を届かせるほど、こちらも馬鹿ではない。

 建物で燃えたのは、ほんの一部の壁程度だ」


周囲の状況を観察する立彬に、太子が答える。

 なるほど、放火のやり方が雑だったので、ある程度防ぐことは成功したということだろう。

 いや、むしろそんな雑な放火であれば、あの護衛の人たちならば完全に防ぐことが出来そうなものだ。

 それが出来なかったのは、あの護衛の人たちも動きを邪魔されている、ということかもしれない。


 ――けどこの広い百花宮全部を守るって、相当大変だものねぇ。


 防衛とは難しいものなのだと、雨妹は改めて思い知らされる。

 それにしてもあの宦官たちのやり口といい、色々なことが雑に思えるのは、東国側の人材不足なのか、はたまた皇帝側が上手だったのか?

 どっちにせよ、追い詰められた人間はなにをするかわからない。


 ――もう後がないってなった人って、破れかぶれでトンデモ行動をしちゃうもんねぇ。


 雨妹とて前世ではこうした荒事ではなかったものの、そうした場面に遭遇したことがしばしばあった。

 特に病院勤めという仕事は色々と心労が大きい職場であったので、心労を溜め込んだ末の爆発は色々な事件を起こしたものだ。

 そんなことを考える雨妹の一方で。

 太子は雨妹たちの背後にいる外套で身を隠した人物――ダジャが気になるらしく、しきりに視線を向けている。

 だがダジャはその視線から逃れるかのように、スウッと一歩下がり、無言を貫く。

 ダジャは太子の身分を察しているのだろうが、なにしろこっそりついてきた身であるので、当然挨拶なんてするわけにはいかない。

 そのダジャを連れてきた雨妹にも視線を向けられるのだが、太子側に情報を与えないようにしていたので、こちらとしても若干気まずい。

 しばし雨妹とダジャと太子の三者で、だんまり大会となっていたが。


「はぁ~」


太子が大きく息を吐く。

 どうやら太子は、ダジャについて追及したい気持ちを一旦諦めてくれたようだ。

 次いで、再び雨妹の方を見た。


「雨妹、火事は恐らく対処可能だ。

 君は陳先生の所へ行ってやりなさい。

 あちらもきっと大変だろう」


確かに、火事は思ったよりも小さな規模で治まっており、このまま油断せずに消火活動をすれば、どこもやがて鎮火するだろう。

 けれど火事などでの怪我人は、これから増えていくはずだ。


「わかりました、医局へ行ってみます」


雨妹は太子にそう答える。


「なにがどうなっているのかわからぬ故、危険の把握が難しい。

 重々に気をつけろ」


続けて立彬が厳しい顔で忠告してくるのは、立彬自身は雨妹とこの先を同行できないからなのだろう。

 雨妹としてもさすがにこの混乱の最中、これ以上立彬を太子から借りっぱなしでいるわけにはいかない。


「はい、注意します」


これにも雨妹がそう答えるが、内心では先程襲われたばかりでもあるし、不安を抱えていたのだが。


「危険、私も行く」


背後から小さくダジャが告げた。

 雨妹はダジャの強さをこの目で見たので、彼が一緒に来てくれるのは心強い。

 静も一緒に居られるのが嬉しいのか、ダジャの外套をクイクイと引くのに、ダジャはその肩を叩いて返す。

 立彬もダジャが同行することで、ある程度の安心感を得られたのだろう、若干表情を和らげる。


「どうか、くれぐれもこの娘を頼む」


そして立彬はそう言って、持っていた棍を丸腰のダジャに渡す。


「……わかった」


ダジャは棍を受け取ると、強い決意を感じさせる目で立彬に向かって頷いた。

 というわけで、雨妹は太子宮に来たばかりで、またまた移動だ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 皇帝はどこまで東国の動きを把握しているのでしょうね~。 気になるところです。
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