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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十章 争乱の宴

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358話 聞こえた

 里ではあまりジンと積極的に話をしなかったダジャだが、どうやら静には「自分の方がお姉さんだ!」という意識があったことがわかった。

 ダジャが後から里へ来たためと、宇からもなにかを吹き込まれてもいたせいもあるようだが。

 旅の道中で姉ぶって行動をしたいらしく、これも子どもの成長だろうと、ダジャもそれに付き合っていた。

 ダジャは皮肉なことに、奴隷として奴隷商に連れ回されたことで、外の国を見る機会に恵まれたが、静は里の外の世界をろくに知らないのだ。


 ――知らないというのは、ろくなことを招かない。


 かつてのダジャがそうだったように。

 それにダジャは繰り返すが女人が苦手ではあるし、時折後ろ暗い気持ちを抱くこともあるが、かといって静の不幸を願っているわけではない。

 それに物知らずなのはダジャとて同じだ。

 ダジャの方が大人としての振る舞いをわかっている分、いくらか理知的に振舞えていたであろうが、それでも都まで物知らず同士、助け合ってやって来たのだ。

 その静のいる居場所が、今どうやら危険なのだという。

 あちらで何事もなければいいと考えた、その時。


 ――声?


 ダジャの耳に、風に乗った音がひっかかった。


「今、叫び声がした」

「……声だと?」


唐突にダジャが告げると、ミンが訝しむ表情になる。

 明には聞こえなかったらしいが、そもそもダジャは常人よりも耳がいいのだ。


「私は草原のはるか遠くにいる、山羊の声も聞こえる」

「そりゃあ、意外な特技だ」


ダジャが己の耳の聞こえについて説明すると、明が目を丸くしていた。

 この耳の良さは、盗賊退治に非常に有効であったが、普段は意識して聞かないようにしている。

 でないとうるさくて生活に困る。

 しかし今はネファルの事で気が立っていたため、良く聞こえるようになっていたようだ。


「それで、声とやらはどこからしたのだ?」


尋ねる明に、ダジャは声がしたと思う方を指さす。


「あちらにはなにがある?

 娘の声、悲鳴のような、喚くような、聞いたことがあるような……」


ダジャが声のことを思い出すようにして話すのに、明の顔色がサッと悪くなる。


「皇太后宮の方角だ。

 ここは百花宮に近い場所だが、それにしてもまさか……」


深刻な顔をする明だが、思えばダジャがここで聞いたことのある娘の声となると、限られている。

 そして少なくとも、静の声ではなかった。

 その後はとにかく、声がしたと思う方へと行ってみることとなる。

 それが結果として、雨妹ユイメイの元へとたどり着いたのだ。


***


「そんなことがあったんですかぁ」


明とダジャがこの場にいる経緯を聞いた雨妹は、大いに感心した。

 雨妹が今いる場所は宮城のすぐ近くで、なんと皇太后宮の狭間の宮だという。


 ――なるほど、だから明様とダジャさんが入れているのか!


 敷地内に狭間の宮があるのだから、皇太后ともなればそれだけ特別な扱いだということだ。

 その比較的近くにダジャが滞在する兵舎があり、ダジャが雨妹の声を聞いた気がすると唐突に言い出したというわけだ。

 ダジャの耳の良さに助けられたのだから、口を塞がれるまで盛大に騒いだ雨妹の行動は、無駄ではなかった。


「かなり東国に入り込まれ、ここへ来るまでにも幾度か戦闘をした」


しかめ面でそう話す明曰く、ここ狭間の宮が東国の密偵の隠れ家と化していたようで、そうなれば百花宮のみならず、宮城側も危ういということだ。

 そしてその戦闘の途中で明とダジャの二人と、雨妹の足取りを辿っていた立彬リビンが合流したのだという。

 戦闘と聞いて、雨妹はとたんに心配になる。


「皆さん、お怪我などはないですか!?」


雨妹は立彬や明、ダジャの周りをグルグルと動き、動きに違和感がないかを確かめる。

 だが動きがおかしい所は見当たらないので、少なくとも大きな怪我などはないのだろう。

 そう考えてホッと息を吐く雨妹の一方で、明が前もって手を打っていたのか、すぐに宮城側から人が来て、この部屋になだれ込んできた。

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