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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十章 争乱の宴

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354話 救出

 立彬リビンは棍を操り、相手を追い詰めていく。

 立彬が手にしている武器が剣ではなく、棍であるのが見慣れない気がするが、武器を変えても強いなんて器用な男である。

 それでも相手の男はどうにか立彬の隙を突いて逃げようとする。


「しつこい!」


逃がすまいとする立彬であるが、そこへ宦官を捕らえ終えたダジャがその逃げ道をすかさず塞ぐ。


「ダジャルファード……!」


男がダジャへ怒りの目を向ける。

 雨妹ユイメイがそんな三者の攻防を見守っていると。


「今解く、じっとしていろ」


頭上から声がして、顔を上げるとミンがいた。

 明も一緒だったとは、一体どういう経緯で三人一緒になったのか、雨妹としては気になるところだ。

 ともあれ、明から拘束を解いてもらえた雨妹は、「ぷはぁ!」と大きく息を吸う。

 風通しが悪い布で鼻と口を覆われ、実はかなり息苦しかったのだ。


「あ、立彬様は!?」


雨妹は慌てて立彬に視線を戻すが、立彬が戦っている男はかなりしぶとかった。

 立彬の棍とダジャの体術で追い詰めていくが、なかなかあの男を捕えられない。

 敵の本拠地に送り込まれるくらいなので、恐らくは東国の中でも凄腕なのだろう。

 それでも立彬とダジャの二人がかりには勝てず、やがて捕縛された。


「くそぅ!」


悪態をつく男を拘束するのに立彬は油断せず、男の衣服や口の中を探り道具をいくつか没収する。

 確かに最後の破れかぶれでなにかされては、たまったものではない。

 そこまで終えて、立彬が雨妹の方を振り返る。


「雨妹、無事か」


いつもの調子で問う立彬に、雨妹は肩からホッと力が抜ける。


「はい、お腹が空き過ぎている以外は無事です!」


雨妹の正直な言葉に、今度は立彬の身体から力が抜けた。


「まったくお前は……。

 静も言っていたが、食事をする間もなかったらしいな。

 一応、これだけ掴んできたぞ」


そう言って立彬が懐から差し出した包みの中身はというと。


「饅頭だ!」


とたんに溢れる雨妹の笑顔に、立彬が「しょうのない奴め」とこぼすのだった。


***


ところで、何故この場にダジャがいるのかというと、時は遡る。


『お前、何故ここにいる!?』


滞在する部屋に突然現れた者を前に、ダジャは驚愕の表情になる。

 今目の前にいるのは、見張りではなかった。

 それどころか、崔国の者ですらない。


『ああ、やっとお会いできた、我が君よ』


うっとりとした表情を浮かべてダジャに近付いてくるのは、短い黒髪に浅黒い肌の男――把国人だった。

 見知った相手どころではなく、かつてダジャが指揮していた軍で副官にあった男。

 それはすなわち、ダジャを罠にかけた張本人でもある。


『我が君』


以前は聞き慣れていたはずのこの言葉だが、今は何故か背筋がゾッとしてしまう。

 だがよく見れば、ネファルはダジャが知っている姿ではない。

 片目を失っており、ダジャが知っているこの男には両目があった。


『ネファル、答えよ。

 何故お前がここにいる?』


ダジャが詰問する口調になると、何故かネファルは嬉しそうに笑みを浮かべる。


『我が君、あなたに会いに来たにきまっているではないですか?』


ネファルの言葉を、ダジャは咄嗟に呑み込めなかった。


『なにを……なにをぬけぬけと言うか!

 お前が裏切ったのだぞ!?』


ダジャはそう怒鳴りつける。

 己の至らなさが戦乱を回避し損ねさせたことを、ようやく自覚し始めたダジャであるが、それとこのネファルの裏切りとは話が別だ。

 ダジャが捕らえられた後の仲間たちは、一体どうなったのか?

 無事であるなどという楽観的な考えは、ダジャにも浮かばない。

 このダジャの糾弾は、しかしネファルには響いていないようで、笑みを浮かべたままだ。


『仕方ないではないですか、俺はあなたが欲しかった』


そう述べたネファルの片目が、ギラリと欲のようなものを宿したように見えた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 立彬がわざわざお饅頭持ってきてくれるの雨妹に対する理解力がありすぎて最高だなって まあ雨妹にはパパ上の影がついてるので命に危険はないってわかってるからお饅頭持ってきてくれる余裕があったん…
[良い点] 立彬さん! 饅頭を懐で温めつつ、戦闘するなんて!!! やはり雨妹の隣でニコニコして欲しいですね。 [一言] へ、、、、、へんた、、、い?
[一言] 副官は男色の気があったのか。
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