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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十章 争乱の宴

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345話 騒ぐ雨妹

雨妹ユイメイが一人駆けていくジンの後姿を網の中から見送っていると、人の足音が聞こえてきた。


「一人外したか」

「まあこちらの娘だけでも、どうにかなるだろう」


聞こえてきた会話に、雨妹は網の中から顔を上げ、声の方を見る。

 するとそこには、あの護衛の人同様に顔を隠した姿の者と、宦官がいた。

 その宦官には、雨妹は見覚えがある。

 というか、先程見たばかりではないか。


 ――この人、さっきの宦官じゃんか!


 沈との会話に割り込んできて、雨妹の食事を邪魔した憎き敵である。

 俄然雨妹の闘志が増して、ジロリとそちらを睨みつける。


「どういうつもり!?

 百花宮で騒ぎを起こすなんて、皇帝陛下に対する反逆なんだから!」


怒りの叫びを上げながら網の中で暴れる雨妹に、宦官が冷たい目を向けてくる。


「それがどうした、そんなことはどうとでもなるわ」


そう言って宦官はニタリと嫌な笑みを浮かべる。


「ちょうどいい、この娘がいい加減目障りだったのだ。

 私が仕込んだ事をことごとく潰してくれたな、おかげで『あちら』は非常にお怒りなのだぞ!」

「なによ、知らないってばそんなことは!」


雨妹は噛みつくように叫び返しながら、頭の中は冷静になろうと努める。

 「あちら」というのは、最近の情勢を考えても、恐らくは東国のことだろう。

 そして「ことごとく」というのだから、この宦官の東国に関与しての手出しが複数回あったということである。

 そのいくつかを、雨妹が邪魔したらしい。

 思い当たるような、ないような気がするというか、「どれの事を言われているのか?」というのが正直なところだ。

 けれど、この宦官の初っ端の態度からして、皇太后のお付きであることは想像できる。

 それがどれだけ近しい立場なのかはおいてくとしても、皇太后の名前を出して東国の手助けをしてきたことは間違いないだろう。


 ――裏切り者を身近に置いていたとか、皇太后陛下って人を見る目がないんじゃないの!?


 この花の宴のどこかにいるであろう皇太后に、雨妹が文句を言いたくなっていると、雨妹が絡まっている網をグイっと引かれた。


「うぎゃっ!」


網ごと引きずられた雨妹が悲鳴を上げるのに、宦官が「うるさい!」と蹴飛ばしてくる。

 しかし宦官は足腰の力が弱いらしく、大した痛みはない。


「早ぅ、この娘を連れて行け!」

「あと一人が気になるが……まあいい」


宦官の剣幕に、もう一人は妥協したように頷くと、網をさらにグイグイと引かれていく。


「ちょっと、乱暴しないでよ!

 っていうか放しなさいよね!」


雨妹は出来る限りの抵抗を試みるが、網ごと縄でぐるぐる巻きにされ、麻袋に放り込まれてしまう。


「放せ~!」


けれど口は塞がれていないので、精一杯騒いでやった。

 この宦官たちは雨妹との口論で、静を逃がしたことは諦めたらしい。

 ひょっとして他にも雨妹たちを捕まえようとしている者がいるかもしれないが、追手が一人外れたことは確かだ。


 ――よし、これでいい。


 雨妹は袋の中で一人満足する。

 このような罠がなんのために仕掛けられたのかわからないが、最悪なのは、雨妹と静が二人して捕まってしまうことだ。

 静だけでもここから逃がせば、誰かに助けを求めようとするだろう。

 それに、きっと先程の護衛の人の仲間が、なにかしらの異変を察知するはずだし、そうなると助けはきっと来る。


 ――今の私がやることは、それまで時間を稼ぐこと。


 けれど懸念するべきは、助けを求めようにも、静には頼るべき人がまだまだ少ないということだろう。

 雨妹を介して知り合った宮女たちも、静の話をどこまで聞いてくれるものか? 普段なら親身になってくれても、なにしろ今は花の宴の最中だ。

 それでも、静になんとかしてもらうしかない。


 ――がんばって、静静!


 雨妹は袋詰めされながら、静を応援するのだった。

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