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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十章 争乱の宴

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342話 都へ

その後、州城へと到着してからもずっと、ジンユウの前に姿を見せることはなかった。

 そしてあれほど静を構っていた宇だというのに、静に会いに行くそぶりも、気に掛けるそぶりもみせない。

 ただ州城の実質的な支配者である東国の将軍とやらに、愛らしい笑顔で愛嬌を振りまき、豪奢な服を着て贅沢を享受するだけだ。

 この宇の様子を見て、ダジャは安心した。

 口がやたらに達者な宇であるが、やはり人とはこんなものだ。

 己は子どもの強がりを真に受け、振り回されただけ。

 そのように考えるダジャも、宇の護衛のための奴隷ということでぞんざいな扱いは受けず、奴隷商に連れ回されていた頃と比べれば穏やかな生活ができていた。

 しかし、その生活は長く続くものではない。

 この穏やかさを壊したのは宇である。

 宇から夜の他が寝静まった時刻に部屋へ来るように言われ、ダジャは言われた通りに部屋を訪ねた。

 部屋の見張りの兵はいたが、ダジャが入っていくのをニヤニヤして見ているだけである。

 そして寝所で待っていた宇が、ダジャの顔を見るなり告げた。


「アンタ、仮にも『王子であった』と言うんだったら、外交くらいできるよね?

 なら都へ行って、皇帝陛下に繋ぎをとってきて」


これを聞いたダジャは、ただ固まるしかできない。


「……何故だ?

 そのようなこと、そちら方面が仕事の役人がすることだろう?」


ダジャの言葉に、宇が呆気にとられている。


「はぁ? ここの役人に任せるわけがないだろう?

 苑州をどうにかしてもらおうっていう企みなのに」

「なんと……」


ダジャは言葉に詰まる。

 いつだったか、宇と静が言っていた「英雄皇帝」とやらについてのことを、宇は本当に実行するつもりなのか?

 あれ以来なにも言わないので、あのこともてっきり冗談か夢物語を述べたのだと、ダジャはそう思っていたというのに。

 こんなダジャの驚きを宇は放置して、話をどんどん進める。


「手形代わりに、コレを預けてやる。

 あとは静も手形になるだろう。

 あちらにとってはお前のような『王子もどき』よりも、静の方がよほど重要人物だろうさ」


そう語った宇が、なにか硬い物が入った包みを放り投げて来た。

 厳重に封がされていて、「開けたら国からアンタの首を飛ばされるぞ」と宇が脅してくる。

 ダジャは宇から「王子もどき」と揶揄された事は許しがたいけれど、これまで全く触れもしなかった静の名を突然出してきたのに、戸惑いを覚える。


「何故、今更静なのだ?

 とうに見捨てたのだろう?」


ダジャが本気で問いかけるのに、宇はしばし沈黙してから、こちらを見もせずに答えた。


「はぁ~、本当に頭を使わない男だな。

 アンタは赤ん坊かなにかなの?

 僕が静に構ったら、余計に嫌がらせしようっていう連中が盛り上がるからじゃん。

 一応手は打ってあるし、静は無事だよ。

 なぁるほど、そんな風だから、ボゥもアンタのことを放っておけなかったんだろうね。

 アイツは弱い者に対して優しいから」


呆れた調子の宇の言葉に、ダジャはカッとなる。


「弱いだと!? なんという侮辱を……!」

「ああ、そういうのはもういいから、付き合うのに飽きたよ」


ダジャが怒りを覚えて詰め寄るのに、しかし宇はサラリと流す。


「博のことは大っ嫌いだけれど、アイツはアイツで一生懸命なことは理解しているんだ、これでもね。

 自分の欲のためならばなんでもする、実に人間らしいじゃない?

 他人をあてにするばかりで、自分はなにもしないよりはマシってところかな」


そしてちらりとダジャを見る。


「バブちゃん王子、とにかくこれは決定だから。

 仕方なくアテになるかも疑わしいアンタに預けるけれどさ、僕の大事な静になにかあってみろ、どこまでも……地の果てどころか地獄の果てまでお前を追い詰め、その行いを後悔させてやる」


宇の笑顔で告げた言葉に、ダジャは怒りを飲み込む。

 決して、宇に気圧されたわけではない。

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