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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十章 争乱の宴

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335話 第二王子

その後気が付いたダジャには鎖が巻かれた姿で、檻に入れられていた。

 檻の外に人の姿があり、それが第二王子ルシュフェルであるとわかる。

 彼は檻の隣に優雅に椅子に座っており、手に握る鎖を引くと、ダジャの鎖が引っ張られる。


「兄上殿には見えますかな、良い光景でしょう?」


笑顔のルシュが手をかざして示した先にあるのは、無残に焼け落ちた王宮と、東国の兵士に蹂躙されている外街の様子であった。

 その光景に、ダジャが声もなくただ目を見開くしかできない。


「こうして流された血で、澱んで腐った血が洗われていくようだ、そう思いませんか兄上殿?」


ルシュが鎖の先をもてあそびながらダジャに話す様子を見て、ダジャはようやく悟る。

 この事態を招いた元凶が、この男であるということを。


「きさま、このようなことをして許されると思うているのか!」


檻の中から怒鳴るダジャに、しかしルシュは微笑みを返す。


「おかしなことを仰る兄上殿だ。

 許すもなにも、誰かに許される必要性を感じませぬ」


そう言ってダジャを射抜くように見つめる視線には、ゾッとする冷たさが宿っていた。


「開き直りか、みっともない。

 きさまは国王陛下を、父上を殺したのか!? 多くの罪なき者の命を奪ったのか!?」


それでも檻の中から糾弾するダジャに、ルシュは微笑みを崩さない。


「罪なき者とはおかしな仰りよう、冗談にしては上等だ。

 この地に巣食っていた腐った血を維持するために、どれだけの民が踏みつけられ、命を落としていったものか。

 兄上殿にわかりますか?」

「……?」


ダジャにはルシュがなんの話をしているのか、全くわからない。

 怪訝そうにするダジャに、ルシュが幼子に向けて話すかのように、優しく語りかけて来る。


「兄上殿、ご存知でしたか?

 あなたが嬉々として狩っておられた盗賊という存在は、元は全て善良なる国民でございます。

 それが病や貧困で身を立てられなくなり、他者の実りを奪うしか選ぶ道が見えなくなったのは、国の怠慢というものでしょう」


ルシュの話すことは、ダジャには理解できない。

 盗賊は盗賊、悪党ではないか。

 それが元は善良な民だというのか?

 呆然とするダジャに、ルシュは「仕方ないなぁ」という表情になる。


「兄上殿の世界は狭く、国とはこの王宮を指すのでしょうね。

 しかし国民のほとんどは、王宮でも外街でもない、貧しい村で暮らす者たちなのです。

 つまり、兄上殿は民殺しを繰り返されていた凶悪な殺人鬼ですね」


殺人犯呼ばわりされたダジャは、檻の中であることも忘れてルシュに突進しようとして、檻に身体をぶつける。


「そんな誤魔化しに惑わされるものか!

 元は善良なる民であるのが真実だとしても、盗賊に堕ちたのは心が弱いからだ!

 その者たちの弱さが悪いのだ!」

「はっはっは!」


ダジャが説き伏せようとするのに、しかしルシュは大笑いをする。


「なんとお可愛らしいことを仰るのだろう、まるで幼児の癇癪のようだ。

 それにしても、兄上殿は頭に血が上っているように見受けられるが、どうです?

 煙草でもやって落ち着かれては」


ルシュがそう言って手を叩くと、どこからともなくやってきた側仕えらしき女がルシュの前に跪き、布に包まれたなにかを差し出す。


「さあどうぞ、兄上殿」


その煙草とやらは、ダジャが見たことのない代物であった。

 葉で巻いてあるものではなく、それに異臭がする。


 ――待てよ、「煙草」だと?


 東国が攻めてくる前に見た、外街の様子が思い出される。


「それも、きさまがやったのか……!?」


噛みつくように叫ぶダジャに、ルシュが大きくため息を吐く。


「ああ、やっとおわかりになりましたか。

 王宮の者たちはどうしようもなく鈍くていけない。

 助言を差し上げたのに、全く動くことがなかった。

 実に残念です」


そう告げたルシュは椅子から立ち上がると、檻越しにダジャの顎を強引に掴んでくる。


「この国を体現したかのような兄上殿、この国をあなたと共に逝かせたくないのです」


まるで憐れむようなルシュの目が、ダジャには憎らしく映った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 王位継承予定であった王子の諸々の教育がこの程度ということは、君臨はすれど善く治めてはいなかったということか。ゆるゆると滅びに向かっていたところに止めを刺されたと・・・。
[一言] 近親婚の話から薄々感じていたけど、ダジャの視野の狭さが血の狭さと直結しているかのようだ。 他と血の交じりのある第二王子の方がこんなにも国をよく知っている。意外と把国もちゃんと復興して行ってそ…
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