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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十章 争乱の宴

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334話 無情な現実

会議での話や、父王から言われたからというわけではないが、ダジャはなんとなく気が向いて、久しぶりに王宮の外を歩いてみた。


 ――なんだ、これは……。


 己の目の前に広がる光景に、ダジャは愕然とする。

 王宮の外街は、国に認められた職能を持つ優秀な一族が集められた場所だ。

 国に保護されていることもあり、誰もが裕福に暮らす幸せな街であったはずであった。

 それが今見えている街は閑散としており、道行く人の顔はどこか荒んだ様子で、路上で転がっている者はなにをしているのか?

 青い顔で立ち尽くすダジャの足元に、誰かが縋ってきた。


「にいさん、煙草をくれよぅ」


やせ細った腕を伸ばしてきたのは、男とも女ともわからぬ汚い者である。


「ぶ、無礼者、放せ!」


貧相なその者のことが怖くなったダジャは、その者を蹴り飛ばしてから大急ぎでその場を離れる。

 王家自慢の能力者の集まり、国中どころか他国の者も羨む街であったはずなのに、いつからこのようになっていたのか?

 誰も、ダジャの周囲の誰もこのようなことを言わなかった。

 いや、誰もこのような街を見ていないのかもしれない。

 ダジャがいつも連れている者たちは、行動がほとんどダジャと変わらない。


『弱き民への慈悲の心を忘れてはならぬ』


父王の言葉がダジャの頭の中に響く。

 もしや父王は、この外街の現状を知っていたのか?

 あのように死人の一歩手前の身であるというのに、ダジャの知らなかったことを知っている。


 ――次期国王であるこの私が、王宮のすぐ側のことを知らなかったとは。

 

 ダジャは自身の無関心故の怠慢を初めて恥じる。

 ともあれ、現状を知るに至ったダジャであるが、この時外街を少し歩いただけの短時間に、何度も聞いた「煙草」というものが気になった。

 煙草なんて、そのあたりに売っているものを買えばいいはずだ。

 この街に住む者にとって、煙草とは高い買い物ではないだろうにと、ダジャは小さな疑問を抱く。

 そこでダジャは自ら聞き込んでみたが、会話を交わした誰もダジャを王太子であると気付かない。

 ダジャがいかに外街の者に知られていないのか少々落ち込みもしつつ、わかったことがある。

 彼らの言う煙草とはそこいらで売られているものではない、「特別な煙草」であった。

 それを誰もが欲していて、飲食も仕事も忘れてただ煙草を求める者たちが外街にあふれている。

 ここへきてダジャはこれが「病」などという可愛らしいものではないと、ようやく気付いたのだ。

 「特別な煙草」とは一体なんなのか?

 ダジャはこれを調べようと決意する。

 しかし、行動に移すには遅すぎたのだと、後に知ることとなるのだ。



ダジャがまさに行動しようとしているのをまるで見計らうように、国に異変が起きた。

 東国の軍隊が把国に乗り込み、進軍してきたのだ。

 ダジャは当然、先頭に立って東国と戦った。


 ――東国の軍を国内で暴れさせてなるものか!


 ダジャと仲間たちの奮闘の結果、東国の軍勢を押し返すことに成功する。

 戦っている間、ダジャは色々な問題から解放された気分であり、外街の「特別な煙草」のことなんて、忘れかけていた。

 奮闘してくれている兵たちを労わるためにと酒を振る舞い、自らも楽しく飲み、次の戦いに備えていた時に、その知らせはもたらされる。

 そろそろ休もうとしていたダジャの天幕に駆けこんできたのは、信頼する副官の男であった。


「国王陛下、崩御!

 お亡くなりになられました……!」


なんと、父王が死んだという。

 確かに父王はめっきり弱っており、いつ逝ってもおかしくないとは思っていた。

 それでも驚きと恐怖と喪失感で、血の気が引いていくダジャの耳に、続けて報告がなされる。


「その上、ダジャルファード殿下も戦死なさった模様」

「……なに?」


その先のことは、ダジャの記憶は確かではない。

 恐らくは毒でも盛られていたのだろう。

 しかも戦場で己の命を預けるに足ると信じていた男に、裏切られたのだ。

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