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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第九章 苑州の乱

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312話 不満な宇

「けどさぁ、本当は僕が一緒に逃げてやりたかったんだよね」


ユウが口を尖らせるが、そうするわけにはいかなかった。

 「大公のおまけ」である姉が一人で逃げるのと、「大公を連れた人間」が逃げるのとでは、追手の本気度が違う。

 なので宇はジンと別行動をしなければならず、そうなれば静を任せる同行者が必要になる。


「それにさぁ、静をどこに逃がすかも、僕だってかなり考えたんだよ?

 東国は駄目だね、こっちに派遣されるのが下半身ユルユルの性犯罪者が多すぎて印象最悪で『バツ』!」


宇が奇妙な言い回しをして、両腕を身体の前で交差させてみせた。

 かつては影として色々な所へ潜入経験のあるフェイだが、記憶にない表現である。

 けれどとにかく駄目なのだと言いたいらしいのは、なんとなくわかる。


「で、皇帝陛下が幼児好きって聞かないから、まあ安全かなって思ったの。

 道中の静のお守役も厳選したもんね、ある程度教養があって不能……おっと、これは内緒だった。

 とにかく、安心な奴隷なの!」


飛は今、すごい情報が出た気がする。


 ――今、不能と言ったか?


 もしやこの話は宇の姉の同行者で、把国の王子らしいという話の男の件なのだろうか?

 次期国王と目されていた男が、不能だというのか?

 真実だとしたら、かなりの醜聞であろう。


「そんな都合のいい奴隷がいたのか?」


驚きで固まる飛をよそに、全く態度を変えずに大偉ダウェイが宇にそう問いかける。


「うん、従兄から譲られたんだけれどさ、その人って女の子に興味がないの。

 本人は隠しているっぽかったけど、僕わかっちゃったもん!

 ね、可愛い静を預けるのにしれっと傷者にされる心配がなくて、安心でしょ?」


さらなる衝撃情報が出た。


 ――だが、あり得ることだな。


飛は考えを巡らせる。

 不能――子作り能力に障害があるとなれば、女性を苦手に思うようになっても不思議ではなく、結果として同性に性愛の感情が向けられるようになるのは、そう奇妙なことではないだろう。

 そのような男奴隷として致命的な欠点があるとすれば、苑州へ来るまで買い手がつかずに売れ残っていた理由としても十分だ。

 しかし今の宇の話を真実だとするならば、把国の王子を取り巻くアレコレに対して、違った見方が出てくる。

 もしや跡取りである王子を「国を率いる国主として相応しくない」とみなした一派による、謀反だったのではないだろうか?

 そうなると、東国との関係や事件の時系列なども、王子が己に都合よく変えて話している可能性もあり、当人の言葉を丸呑みするのは危険だ。


 ――まあ、あの陛下に限って一人の意見を鵜呑みにするなんて、馬鹿はやらかさないだろうが。


 飛はこのようなことを素早く考え、ちらりと己の主を見る。


「今の、どうしますか?」


飛の問いに、大偉はしばし考えていた。


「これも点数稼ぎだ、伝えておけ」


大偉の決断に、飛は小さく頷く。

 これから計画が本当に上手くいくのか定かではないのだから、皇帝への心証を上げるために、稼げる点数は稼いでおいた方が良い。

 しかしながらここまでの話で気になることは、有力情報を提供してくれた宇だが、今のはうっかり口を滑らせたのか、はたまた計算でのことなのか?

 飛はなんとなく後者な気がした。

 上手い時機を見計らって「自分は役に立つ存在だ」と売り込むそのやり口は素晴らしく、いっそすがすがしいものがある。

 けれど、この宇はまだまだ子どもなのだということも、また真実であり。


「大人に任せておけば、自分は楽をできるものを」


飛は思わずそう零す。

 なにもわからない振りをして、難しいことは大人に任せ、自分はただ遊び暮らすという選択肢は取り得なかったのか?

 この飛の意見に、宇がジロリと睨み上げた。


「大人って誰のこと?」


そう鋭く切り返す宇が声を低くする。


「州城の連中も嫌いだけれど、爺たちだって同じくらい嫌いだもの。

 どいつもこいつも馬鹿ばっかりだ」


そう語る宇は、眉間に深く皺を寄せた。


「爺たちはね、僕を育てて旗印にして、いつか自分が州城で偉ぶりたいんだ。

 けどさ、爺たちにそんな才覚はないね、田舎で偉ぶっているのがせいぜいさ。

 そんな連中が苑州を動かすようになってみなよ、まあ碌なことにならない」


宇は子どもっぽく頬を膨らませるわけでなく、真剣な表情で怒りを吐き出す。

 その姿が飛は一瞬、壮年の男であるかのように錯覚する。

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― 新着の感想 ―
[一言] これ絶対中身子供じゃないでしょー。 転生したおっさんが入ってても驚かない
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